2007年7月4日水曜日

『アイデン&ティティ』


こないだ、深夜のテレビで、映画『アイデン&ティティ』をやってましてね。
これ、みうらじゅん原作のコミックもDVDも、見なきゃ見なきゃと思いながら、ずーっと見てなかった映画。録画して、やーっと見ました。

原作:みうらじゅん
監督:田口トモロヲ
脚本:官藤官九郎
音楽:白井良明、大友良英、遠藤賢司
出演:峯田和伸、中村獅童、大森南朗、麻生久美子、三上寛…

このメンツだけで、なにか、いろんなもんが保証されているような、とんでもないキャスティングですな。
ちなみに、チョイ役で、なにげに、大杉漣、ピエール瀧、浅野忠信、村上淳なんてところも出てます。

話はカンタンですよ。
バンドブーム吹き荒れる80年代後半の東京は高円寺が舞台。4人組のロック・バンドであるSpeed Wayも、ブームに乗ってメジャー・デビューを果たしたものの、その後はパっとしない活動が続き、メンバーの生活はなーんも変わらんまま。狭苦しいスタジオで練習し、居酒屋でロック談義に花を咲かせる日々ですわ。
で、理想家肌のギタリスト・中島(峯田和伸)は、売れる曲を書けと迫るボーカルのジョニー(中村獅童)と言い争うんだけれども、どうしてもいい曲が書けなくてね。
そんなとき、中島の枕元に、ロックの神さまであるところのボブ・ディランが現れ、中島はどんどん覚醒していく、というお話ですわ。

多彩な才能が集い、過ぎ去りし祝祭を回想する…、という触れ込みのだけれども、作品の印象は意外なほど正統派の青春映画です。熱病のようなブームの片隅で、自分を表現しようともがくロック青年の純粋さ、その裏側には、将来への不安や恋人とのすれ違いといった、誰もが共感出来る物語が転がってましてね。

ある夜、枕元に、ボブ・ディランが現れるんですよね。ロックの神さまね。
そいつがさ、悩める中島に、語りかけるんだけど、すべてハーモニカで語りかけるんですよね。ハーモニカを吹いているだけなんだけれども、ちゃんと言葉となって、メッセージを伴って、中島の耳に届くんです。
そのボブ・ディランは中島にしか見えなくて、つまり、本気で、ロックってなんだ?って思ってるやつにしか見えなくて、ロックを金儲けの道具にしたり、カッコつけだけのロックをやってるやつには、見えないんですよ。
で、
「やらなきゃならないことをやるだけだ。だから上手くいく」
って、ボブ・ディランは、シンプルな真理を伝えるんです。ハーモニカで、だけど(笑)

これ、もうひとりの自分だな。

オレにもね、16歳の誕生日の夜、寝てたら、部屋のドアを蹴破って、ズカズカ入ってきて、これ聴いてみ!って、1枚のレコードを差し出された経験があるんですよ。
そいつは、もうひとりのオレで、差し出されたレコードは、ジャニス・ジョプリンの『パール』だったんですけどね。
そのレコードにやられてね。その成れの果てが、今のオレですよ。
で、そんときからオレのなかに棲みついてるもうひとりのオレは、そんなんでいいのか?とか、そうそうその調子!とか、まあ、なにかあるたびに、オレの耳元でうるさく叫んでいるわけです。

みうらじゅんにとって、ボブ・ディランはそういう存在なんでしょうね。

そして、ジタバタしながらも少しずつ覚醒していく中島の役を、峯田クンは瑞々しい感性で演じきってます。
ミュージシャンって、演技の勉強なんてしたことないくせに、みんな、なぜか演技が上手いんですよね。
キヨシローにしても、泉谷にしても、鮎川誠にしても、ときどき芝居をするけれども、みんな上手いもん。

ロック小僧そのものという主演の峯田和伸と、終幕で神の真髄を聴かせるボブ・ディランの、世界に響きわたる彼らの切なく青臭い歌声は、じつに感動的だったなあ。純粋であることが難しくなった現代にあっても、この歌声は、なにかを語るに違いないですよ。

ラスト、峯田クンが暴走するライブは、完全に銀杏BOYZの峯田クンになってましたな。
というか、そうならなければ、この映画そのものが成立しないほど、この映画は、峯田クンの映画になっていた。もちろん、みうらじゅんの映画でもあったし、原作漫画が大好きな官藤官九郎の映画でもありました。

愛情がいっぱい詰まった映画だったな。
そういえば、滅多に原曲を貸し出さないボブ・ディランが、この映画には『ライク・ア・ローリング・ストーン』を提供してました。なにかが、通じたんでしょうな。

それにしても、あの、ロックの神さまであるところボブ・ディラン役は、誰がやっていたのだろうか?

調べてみたくて、公開当時の公式サイトに行ってみたら、なぜかアメリカのセックス・ショップのサイトに(笑)






『アイデン&ティティ 君がロック』
Speed Way

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