2006年5月16日火曜日

『インターネット進化論』

最近読んだ本で、出色のデキだったのが、ちくま新書から出ている『ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる』(著:梅田望夫)

これは、ちょっと参りました。
よくある新書判の啓蒙書で、ウェブに精通しまくっている人にとってはなんてことない内容なのかもしれませんが、オレにとっては、かなり刺激的でした。
3回、読み返しましたよ。

インターネットが登場して10年。IT関連のコストが劇的に低下し、技術革新が進み、ここまで来ました、という内容。そして、その結果、現実の世界に大きな地殻変動を起こし、新しい富の再分配、新しい経済圏の誕生、権威の新旧交代が起こっており、それはこれからもさらに加速的に進むだろう、という…。

IT関連のコストが劇的に低下し、技術革新が進み、誰もがインターネットを手軽に利用することが出来るようになったことまでは、誰でもわかります。その結果、さまざまな調べものをしたり、チケットの予約をしたり、商品を購入したりすることが格段に便利になったことも、誰にでもわかります。
そっから先、じつはすでに起こっていることなのに、あまり気付かれていない現状認識が、この本には書かれてあります。

まず、リナックスに端を発したオープンソースですね。
オープンソースとは、あるソフトウェアのソースコード(人間が記述したプログラム)がネット上で公開され、世界中の不特定多数の開発者が自由にそのソフトウェア開発に参加出来るようにし、大規模ソフトウェアを開発する、というものです。
つまり、ソフトウェアが構築されていくプロセスがすべてオープンになっているんです。これは、「企業組織の閉じた環境において厳正なプロジェクト管理のもとで開発されるもの」であったはずの大規模ソフトウェアの常識を、完全に覆してしまいました。

このオープンソースの成功が意味するところは、
なにか素晴らしい知的資産の種がネット上に無償で公開されると、世界中の知的生産者がその種の周囲に自発的に結びつく、ということを示しています。
さらに、
モチベーションの高い優秀な才能が自発的に結びついた状態では、司令塔にあたる集権的なリーダーシップが中央になくても、解決すべき課題に関する情報が共有されるだけで、その課題が次々と解決されていく、ということです。
つまり、優秀な才能が集まっている環境ですべてをオープンにすると、リーダーの存在がなくても巨大な開発が進む、ということです。
この方法だと、数億数10億かかっていた開発費が、かぎりなく、タダになります。驚天動地とは、このことです。

経験上、にわかには信じがたい話ですが、なるほどリナックスはそうした経緯で成功しています。


次に、この本の核にもなっている事柄ですが、グーグルです。
この本に書かれていることがすべて正確なら、グーグルはとんでもない会社です。ただの検索エンジンの企業だと思ったら、エラい目に遭います。
たとえば、検索エンジンというのは、「すべての言語におけるすべての言葉の組み合わせに対して、それらにもっとも適した情報を適応させる」ものです。では、「もっとも適した情報」は、どういう基準で選ぶのか。ヤフーなら、ヤフーに銭を払ったサイトが、トップに来ます。新聞の見出しは、権威を自認する新聞社自体の取捨選択で、順番が決まります。グーグルのすごいところは、サイト相互に張り巡らせられるリンクの関係で、自動的に検索ランキングの上位表示を決定します。そのサイトにどれだけのリンクが張られているか、それだけです。多数のリンクが張られている=多数の人がほしがる価値の高い情報、というわけです。ヤフーのような資本主義でなく、新聞社のような権威主義でもなく、グーグルの検索エンジンは、徹底して民主的です。そうして、検索ページに、もっとも適した広告を自動で付加するのが、グーグルの検索エンジンです。
まだあります。
グーグルは、一昨年あたりから、メールサービスをはじめました。
これは、自分のPCにメールをストックするのではなく、ネット上にメールをストックさせてしまおうという、試みです。グーグルがユーザーに無償で提供するのは、ユーザー1人に対して1ギガという巨大ストレージ。ヤフーなんかもやっていますが、1人1ギガの割り当てというのは、今でも強烈なインパクトがありますね。そして、このGメールでグーグルが考えているビジネスは、個々人のメールの内容を自動的に判断し、最適な広告へのリンクを忍ばせる、というものです。
普通の感覚の持ち主ならば、プライバシーの塊であるメールにその内容に合った広告が挿入されることには、嫌悪感を抱きます。
でも、グーグルはそう考えない。「迷惑メールの除去やウイルスの駆除のためにメールの内容をその判断材料に使うのは常識だし、作業はすべてコンピュータがやるのであって、そのプロセスに人間を関与させることはない。だからプライバシー侵害の危険はない」と。
グーグルは、その発想が、インターネット=善、というところから出発しています。

次が、ロングテールという考え。これは、アマゾンを例に引いています。
たとえば、本の売り上げを、縦軸に売上高、横軸に本、というグラフでつくったとします。左から売り上げの多い順番に本を並べていき、売上高の棒グラフを立てていきます。右に行くほど売れていない本なので、棒グラフの棒は、右に行くほど短くなっていきます。そして、ある地点から、売れた冊数3冊の本が延々と右に並んでいき、2冊の本が延々とその次に並んでいき、1冊しか売れなかった本、まったく売れなかった本が延々と並んでいく、という図になります。巨大な売り上げを誇る左端の本の高く伸びた棒グラフの棒を恐竜の頭にたとえ、右側の延々と低い棒グラフが並んでいく様を、恐竜のしっぽにたとえます。だから、ロングテール。
これまでのリアル書店は、皆、倉庫や在庫といった固定費を抱えます。なので、ある程度以上売れる本で収益を稼ぎ、それでロングテールの損失を補填するという事業モデルでやって来ました。
ところが、ネット書店では、じつは、ロングテールの部分の売り上げが、全体の1/3を占めているというのです。1冊しか売れなくても、それが積もれば、恐竜の首の部分に匹敵する売り上げになってしまうという事実。
リアル書店では在庫を持てない「売れない本」でも、ネット上にリスティングする追加コストはゼロです。だからこそ、アマゾンは230万点もの書籍を取り扱うことが出来るのだし、しかも売れない本には、仕入れの価格競争も存在しないのだから、利幅も大きいわけです。
どうしてこういう現象が起こるのか。アマゾンのレコメンデーション(自動推奨)機能が働いたからです。ある本がベストセラーになり、アマゾンのソフトウェアが、一部の顧客の購買行動パターンに気付き、別の本を自動的に勧めます。そして、勧められた人々がそれを買い、熱狂的なレビューをアマゾンに書き、推奨行動が相互の加速され、ロングテールに埋もれていた本が掘り起こされる、ということです。

リアルの書店がベストセラー10点で商売するところを、ネット書店は、埋もれてしまったロングテール230万点を1冊ずつ売って商売するわけです。多品種少量生産の時代だとはいえ、これは、ネットの発達がなければ、起こりえない現象です。ロングテール230万冊は、ある意味負け犬です。売れなかったのだから。売れても、1冊なのだから。でも、それを集めると、ベストセラー10点に匹敵するという事実!そして、それが商売として成り立ってしまっているという事実!すごいです。

これが可能なら、ゼロのように扱われているチリやゴミでも、集めまくれば商売になってしまう、ということです。
オレたちが無駄にしている1日のうちのほんの2〜3分という時間を、1億人分集めたら、2億時間3億時間という時間が創出されます。
タンスに眠っている5円玉を1億人が拠出したら、それだけで5億円になります。
これは、そういう商売です。

この本は、グーグル讃歌が横軸になっている本なのですが、グーグルって、すごい会社です。
まず、グーグルでは、社員全員が、戦略の議論、新サービスのアイデアから、日常の相談事や業務報告にいたるまで、ほぼすべての情報が、社内の誰もが読めるブログに書き込むかたちで公開され、瞬時に社員全員でそれを共有しているそうです。メールはあまり使わず、すべていきなり全員に向けて公開します。
日本にも、情報がガラス張りになっていると自慢する企業はいくらでもあります。風通しがいい、と。でも、ここまで極端ではありません。人事は秘密裏に行なわれるのが常だし、銀行からの借入金や他人の給料を、誰もが見れる会社なんて、ありません。社員数人の会社ならいざ知らず、グーグルは5000 人の社員が働く会社です。

情報を皆で共有すると、誰かが提示した問題点が別の誰かによって解決されるまでに要する時間や、おもしろいアイデアが現実に執行されるまでの時間は、圧倒的に短縮されます。現代のビジネスの現場において、情報のリアルタイムでの共有化は、圧倒的なスピードを生み出します。
それは、わかっています。でも、グーグルのは、極端すぎます。第一、自分に関係のない情報まで飛び交うのだから、こんがらがります。
でも、グーグルは、こう答えます。
「情報自身が淘汰を起こすんだよ」と。
あ、あ、なるほど!
これ、ちょっと目からウロコでした。
そういえば、mixiだって、トップに表示された新着日記は、古くなれば自動的により新しい新着日記に押し出されて消えちゃうし、コメント記入履歴の欄には、レスが伸びているかぎり記載され続けるけれども、レスが伸びなければ、やがては消えていきます。そういうこと!

社内の情報空間がネット空間だと思えば、合点がいきます。
とてもではないけれども読み切れない情報がネット空間にオープンになっていることを、オレたちは知っています。全部読もうなどと思っている人はいなくて、必要に応じて検索エンジンを使ったり、おもしろいページにはブックマークを貼って更新されるたびに読みます。これを、社内の情報空間にもあてはめたら…、グーグルが社内マネジメントでやっていることは、そういうことです。


この本には、まだまだ刺激的なことがたくさん書いてあって、いくら書いても尽きません。
また後日、続きを書いてみたいと思います。


しかし、そんなマクロな話はさておき、現在、レンタルしているドメイン屋&サーバ屋がDNS情報を不用意にいじりやがって、エラい目に遭ってるルイスなのでした…(涙)

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