2006年5月20日土曜日

辰巳芳子さんの料理哲学

NHK 教育でやってる『知るを楽しむ』が面白いですね。ほぼ毎日観ているし、観れないときは録画して観ています。
毎週月曜から木曜の22:25〜22:50に放送されていて、曜日毎にテーマがわかれていて、人選も毎月変わります。
今月の月曜は、日本サッカー協会の川淵三郎キャプテンによる『日本サッカーが世界一になる日』、
火曜はリリー・フランキーによる『松田優作論』
水曜は料理研究家の辰巳芳子さんの『いのちのスープ』。
木曜は、同志社大学の佐伯順子教授による『明治美人帖』。

どれもかなりかなり面白いんですが、なかでも、今月の毎週水曜放映の料理研究家の辰巳芳子さんの『いのちのスープ』が、メチャクチャ興味深いです。

辰巳芳子さんという方を、オレは知りませんでした。1924年生まれの御年82歳。ものすごく有名な方のようですが、一応、あちこちからパクってきた(笑)解説を載せておきます。
お母さんの浜子さんがやはり教理研究家の草分けで、お母さんのもとで家庭料理を学ぶ一方、西洋料理の研究も重ねられ、日本で初めて生ハムを作ることに成功した人です。

しかし、
そうした功績もさることながら、料理に対する心構えや、料理することを通して得た人生哲学が、とてもとても身に染みました。

辰巳さんは、言語障害を伴う半身不随の病苦で嚥下困難になったお父さんに8年間スープを届けた体験を通じて、よい材料を集めて煮込めば、誰にでも食べやすく栄養と愛情を込められるスープが出来ることを発見していきます。

辰巳さんのお母さんもまた料理の達人だったとのことですが、なかでも、握り寿司は、どんなに腕に立つ寿司職人でも敵わないものを出していたそうです。その秘密は、お母さんは、食べる人の口腔の大きさに合わせて、寿司の大きさをひとりひとり変えて握っていたのだとか。母乳がたくさん出たお母さんは、よく他人の赤ちゃんに母乳を吸わせていたそうです。その経験から、顔を見れば、その人の口腔の大きさがわかるようになったのだとか。そして、握り寿司を握る際に、食べる人の口腔の大きさに合わせて、寿司を握る…。たしかに、どんな寿司職人が束になっても敵わないような心配りだと思います。

次は、塩です。辰巳さんがローマを訪れた際、まだ日本には紹介されていなかった生ハムの魅力に取り憑かれ、日本で生ハムをつくることに挑みました。毎年毎年100本近くの豚の後ろ足を買い込み、生ハムにするための試行錯誤を繰り返し、日本の風土では不可能とされた生ハムをつくることに、20年がかりで成功しました。風を研究し、肉と塩の関係を研究し、乾燥の過程を研究し、風洞式の小屋をつくり…。大変な偉業ですが、辰巳さんが、そこで得たものは、「塩」なのだそうです。どんな食べものでも、究極は塩の加減、塩梅で決まるものであり、その、「塩」について、自分なりに少しは極めることが出来たような気がする、と、辰巳さんは語ります。…溜め息しか出ません。

湯布院で、プロの料理人相手の料理塾も開いているそうです。
そこで語られる言葉は、しみじみと、オレの心を突き刺しました。

料理は、素材と対峙することである。
素材の持つ特性を理解し、それを最大限引き出してあげるのが、料理である。
素材と徹底的に向き合い、素材に従うのが料理であるなら、料理人は経験を重ねる毎に、我がなくなっていかなければならない。
と。

オレは、常々、広告屋にカラーがあってはいけないと思ってきました。
自分らしさなど、広告屋には邪魔なだけだと思ってきました。
広告屋は、与えられた情報から、訴えるべき本質的なメッセージを見つけ出し、それが最大の効果で伝わる方法を考えるだけで、そこに自分らしさなど入れてはいけない、と、思ってやってきました。

そのことは案外間違っていないのだな、と、辰巳さんの言葉や仕事を観ていて、しみじみと思ったのでした。

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