2006年7月17日月曜日

不穏な音楽





発売してから1ヶ月以上たつのに、ついつい書きそびれていました。

ソウル・フラワー・ユニオンのチンドン別働隊、ソウル・フラワー・モノノケ・サミットの新作『デラシネ・チンドン』について、思ったことをツラツラと書いておこうと思っていたのでした。

ヤマトンチューにウチナンチューの流行歌、壮士演歌など、人と人、魂と魂、文化と文化を繋ぐ、究極のトラディショナル・ソング第3弾です。

「それは暗い時代の、ええじゃないか、であったと思う」
春日八郎の『お富さん』をとらえて、作詞家の阿久悠はそのように表現しました。
あの、なぜか胸騒ぎが消えぬ陽気な大ヒットを、彼は、出口の見えない社会のアナーキーな気分を映し出していると指摘したわけです。
この歌は、力道山と死の灰(第五福竜丸の被爆事件)の1954年に、世間を一気に駆け巡りました。阿久悠は、その様を、単なる流行り歌とは考えず、昭和の『ええじゃないか』と喩えたのでした。『ええじゃないか』は、江戸末期にあって、膨大な数の人たちが路上に出て、群をなし声を上げ舞った、きわめて大衆的で、猥雑な世直しの熱のことです。

今回のアルバムに収められているモノノケ版の『お富さん』を聴いて、一瞬、ドキリとしました。作詞家のあの言葉がね、モノノケにも当てはまってると思えたからです。
懐かしの歌謡曲をロック・ミュージシャンがカバーしたから、ではありません。ビートがね、どうにも胸騒ぎを起こさせるような、不穏なビートなのですよ。
本土ではチャンチキ、ドドンパ、それを総合したチンドンのリズム、奄美・八重山では六調、沖縄本島のエイサー…、長い時間のなかにあって、これらは、じつは、世直しの熱の結晶体だったのではないか。そんなことを、思いました。

『デラシネ・チンドン』には、このような、歌の味わいのなかに隠された、根や歴史を十全に伝えてくれてます。とにかくね、不穏という言葉がこれほど似合うアルバムもなかなかないし、その意味で、本来的な意味でのロック、パンクになり得ている作品ですな。
ロック・ミュージシャンが民謡やエキゾチックなテイストを取り入れることは、もはや珍しいことでもなんでもありません。むしろ、定番と言ってもいいくらいです。
でも、そこから、不穏なものを抜き出しているバンドなんて、モノノケくらいでしょう。

今回のアルバムでは、かつて炭坑で真っ黒になって働いた日本人や、半島から連れてこられたコリアンの名曲をカバーしています。あるいは、流れ着いたドヤ街で、それでも太く生きるオレたちの熱い心の中身よ…そんな歌もあります。未だに植民地支配の終わらぬ南島の切ない名歌も、そのウチナーの土俗を微笑ましくまとめた歌もあります。被差別部落の歌もりますね。
ないのは、金持ちの歌だけ。為政者に微笑む歌だけが、ありません。
壮士演歌から半島歌謡、酒場の卑猥なな戯歌、セルフ・カバーと、以前にも増して広いジャンルをカバーしており、にもかかわらずどっしりとした統一感を持っているのが特徴的です。

オープニングの『ああわからない』は、モノノケのトレードマークともいえる、かつての壮士演歌(日本のメッセージ・ソングの原点ですな)のリメイク。中川クンは背筋をしっかりと伸ばし、凛々しくマイクロフォンに向かって歌ったらしいですが(笑)、もはや日本のロックあってこの人だけの格別の姿となっています。オレらは特別でっせ!からスタートし、いやいや普通にやってるだけですねん!の人になったはずなのにな(笑)

続く2曲目が『竹田こいこい節』。京都の被差別部落で大切にされてきたムラの歴史の美しき結晶です。
これについては、過去に日記に書いたので、繰り返しません。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=93370151&owner_id=1792293
少しだけ書いておくと、これは『竹田の子守唄』のルーツ。絶滅しかかっていたルーツをモノノケが甦らせたという、それだけでも貴重な録音です。
アイリッシュ・トラッドの大物、ドーナル・ラニー(ブズーキ)を中心とした淡いバンド・アンサンブルの妙は、ムラのそばを流れる高瀬川のせせらぎのようで…。そして、チンドンのカネや管楽器の優しさに包まれて、中川の歌は微動だにせず立ち、竹田の地を掴みます。いい歌です。

そして、3曲目に『お富さん』が来ます。
作曲者の渡久地政信(とくち・まさのぶ)は、沖縄本島に生まれ奄美で育ち、南島のビート感を本土のメイン・ストリームへ持ち込んだ重要な作家です。
 
モノノケ・サミットは、阪神淡路の大震災が結成のきっかけでした。
この10年余りの歳月、バンドにはたくさんの有志・仲間が出入りし、今に至っています。
彼らは、被災者になにができるか、というところからこのバンドを立ち上げましたが、逆に、彼らの歌を聴いてくれるオジィやオバァたちから、歌のありかを教えられたと言います。
しかし、ライブやるということは、そういうことですね。
そうしたコミュニケーションというか、タマのやりとりがなければ、ライブなどやる意味もありません。
ラスト・ナンバーは『あまの川』。リーダーの伊丹英子(チンドン、コーラス)が、震災をきっかけにつくった鎮魂歌です。
この陽気なチンチンドンドンが、思いもかけずあの世へとわたった人たちの魂を、踊らせています。

0 件のコメント: