2006年3月3日金曜日

逆アフィリエイト! こんな映画観るもんじゃないよ





今日、仕事がらみで『レジェンド・オブ・ゾロ』のDVDを観たのですが…。
なんじゃこら? って映画でしたよ。

スティーブン・スピルバーグ総指揮、アントニオ・バンデラス&キャサリン・ゼタ・ジョーンズ主演です。

カリフォルニアが無事にアメリカ領になれるように「無法者たち」と闘う「貴族
の」ゾロを描いた映画としては、アクション満載で面白いのですが、しかし、史実とは、まるっきり正反対の物語になっとるではありませんか。

えーっと、アクションも面白いし、キャサリン・ゼタ・ジョーンズはキレイだし、なにより、この人、運動神経抜群でトレーニングも積んでいるので、アクションシーンが決まっています。
で、アントニオ・バンデラス。この人、いちおう2枚目なんだけど「女に翻弄される男」を演じさせたら当代一流ですね。『ポアゾン』では、アンジェリーナ・ジョリーに財産丸ごと奪われて、『ファム・ファタール』ではレベッカ・ローミン・ステイモスにぼろぼろにされる…、というわけで、映画としての出来はおもしろい。というか、娯楽作品として、2重丸。

ただし、さすがにハリウッドだけあって、完璧に史実を無視したものとなってますわ〜。ちょっとヒドい。

アメリカのカリフォルニア併合を、諸手を挙げて賛美する内容で、カリフォルニアのメキシコ系住民は、アメリカ併合を心から賛成しており、併合反対派は悪のならず者集団…。あのなあ!

ところで、ゾロといえば、もともと『怪傑ゾロ』として、50年代に大ヒットした映画ですね。じつは最初の映画化は20年代なので、これは数度目。
ここでは、スペイン貴族の血を引くディエゴ・デ・ラ・ベガが、圧政を敷く悪い市長と闘う勧善懲悪ものですが、このゾロ自体が実在の人物をモデルにしています。

実在のゾロは、本名ホアキン・ムリエタ=オロスコ。
ゴールドラッシュの時代、1840年代の終わりから50年代にかけて、カリフォルニアで活躍し、「エルドラドのロビンフッド」とも呼ばれた伝説的な義賊で、その狡賢く神出鬼没なところから出たあだ名が、ゾロ=zorro。スペイン語でキツネ。カリフォルニア在住メキシコ人のあいだで英雄視され、 1853年にハリー・ラブ大尉によって射殺されたことにはなっていますが、その後も生存説がずっと残っていた伝説的人物です。

ちなみに、映画では、前作の『マスク・オブ・ゾロ』では、アンソニー・ホプキンス演じる貴族のディエゴ・デ・ラ・ベガ(ゾロ)が年老いて、後継者となる2代目として、バンデラス演じる盗賊の青年アレハンドロ・ムリエタを教育するという設定になっています。
この主人公(バンデラス)の兄(同じく盗賊)の名前がホアキン・ムリエタ。この兄ホアキンを殺し、弟アレハンドロが2代目ゾロになることを決意する重要な動機となる人物がハリソン・ラブ大尉なんですが、もちろんこれは偶然の一致ではないでしょう。

史実はといえば、元々メキシコ人が住むメキシコ領であったカリフォルニアで、19世紀初頭に金鉱が発見されたために、この地を米国領にするべく米国政府があらゆる謀略を尽くした挙げ句に、フランス軍からも侵略され、国内混乱していたメキシコの弱みを突いて火事場泥棒のような戦争(米墨戦争)を仕掛けて強奪。そして、カリフォルニアには、金鉱を見つけての一攫千金を目指して白人の無法者たちが一気に押しかけ、本来の住民であったメキシコ人を2級市民に落とし、簒奪のかぎりを尽くしたという背景のなか、(だから、そういう意味で映画『レジェンダ・オブ・ゾロ』は、史実とはまるで逆)、カリフォルニアのメキシコ系住民の抵抗運動のシンボルとまでなったのが、ホアキン・ムリエタだったわけです。

本物のゾロ、つまり、ホアキンは、1820年代後半に、フアン・ムリエタとフアナ・オロスコの子供としてソノラ州トリンチェラに生まれます。ここには、彼のお墓もあって、毎年10月23日には彼を称えるチカーノ(カリフォルニア全域に住むヒスパニック)のお祭りもやっています。
もともと温厚な性格だったといわれるホアキン・ムリエタが義賊になったのは、妻のカルメン・フェリスが白人の黄金採掘者にレイプされて殺されたから、と言われています。だから、彼の盗賊団は金に飢えた白人採掘者や黄金輸送車を襲い、カリフォルニアの(メキシコへの)奪回を唱えて、メキシコ系住民からは、愛国者と称えられました。ちなみに、この当時のメキシコの大統領は、フランス軍を撃破して、インディヘナ(オアハカ州のサポテコ族)出身として初めて大統領の座についた(今でもメキシコの最高の大統領のひとりと称えられる)ベニート・フアレスです。

で、この神出鬼没のホアキン・ムリエタへのアングロサクソン系住民の恐怖はかなり大きなものだったらしく、当時、消息を知らせただけでも500ドル、首にかけられた懸賞金は10,000ドルですから。

もちろん、人間ホアキン・ムリエタが実在したのは事実だけれど、実際には、同じようにゲリラ的に抵抗活動を行うメキシコ人は他にも何人もいて、その集大成としての擬人化が、ホアキン・ムリエタでもあったと考える方が自然です。
だから、ホアキン・ムリエタは神出鬼没で、死んだとされているあとでも、現れたわけですた。

こうして、伝説はさらに尾鰭がついてひろがっていきます。

彼はなかなかのハンサムで、黒い馬に乗った姿が絵になったので、愛国者として熱狂的に支持するメキシコ系住民だけではなく、彼を恐れたアングロサクソン系白人たちからさえ、メキシコ系だが貴族の血脈に違いない、と噂され、それが、のちの物語としての、正体は貴族の息子、へと繋がっていきます。
ちなみに、彼を射殺したハリー・ラブ大尉は、米墨戦争のアメリカ側の英雄でもあります。

このゾロを下敷きに、ジョンソン・マッカレイが冒険小説を発表したのが、1919年。ここで、ゾロは、スペイン貴族の血を引く義賊になりました。

こんなことは、アメリカ西海岸で隆盛を誇っているチカーノ・ミュージックをかじっていれば、普通に知っていることです。それを、スピルバーグがなぁ…。彼は、本当に、いつもいつも史実をねじ曲げてくれますね。それも、アメリカにとって都合がいいように。彼は、というよりも、ハリウッドは、というよりも、アメリカは、いつもいつも、そんなかんじですが。

そのゾロが、2006年に及んで、カリフォルニアをアメリカに併合するべく奔走していると知ったら、本物のゾロは墓石の下で嘆くでしょうなぁ…。。

本日は、アフィリエイトならぬ、逆アフィリエイト。
観るな、こんなもん!


そんなわけで、今日は、チカーノ・ミュージックの珍品を聴いております。かっこいいんだ、これが。
ラ・バンバ♪でおなじみのロス・ロボスの変名ユニットで、めちゃくちゃ先鋭的なのに、どっかゆるいです。たまりません!



Latin Playboys / 『Fiesta Erotica』

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