2005年12月20日火曜日

ジプシー音楽の強度を再考する





最近、仕事が超繁忙期に突入してて、少しストレスがたまり気味。
なので、超マニアックに行きます。誰もついてこれなくても、いいんです。浮世のあらゆるしがらみを断ち切って、オレは書きますですよ。

本日のお題は、ジプシー・ミュージック。
いきます!

ジプシー・ミュージックとは、あらゆる景観への既視感を拒否して、移動を繰り返した民族による旅団の音楽であり、ロマンチックに言ってしまえば、漂流民のBGMです。
そして、それは、代償の担保によってのみ演じられる生来の門付け芸人たちの、現実の断面でもあります。

どんな音楽にも、それを生み出した文化的背景、アーティストやアーティストに関する情報が含まれています。
また、音楽には人の生きかたや夢、愛、哀しみ、おかしみ、怒りといった感情面を刺激する、物語性もあります。
さらに、音楽には、踊りたい、陶酔したい、セックスしたいなどといった、人の中枢神経を直撃する官能や薬物的なものも内在しています。

ジプシー・ミュージックは、3番目の効能に特化した音楽です。

いつでも無意識に官能目がけて演奏され、穏やかな場合ですら、踊りを誘発する程度には薬物的です。
本来、彼らの宿命的な流浪と漂流には語り尽くせぬ歴史や物語が潜んでいるはずなのに、ひとたびジプシー/ロマが演奏しはじめた途端、そこに現出するのは、景観を遮断し、ただただ踊らせ、感じさせる媚薬のような快楽にのみ支配された空間です。
もちろん、嘆きも艶歌も、なかにはあります。しかし、その本質はいずれも漂流する日々の刹那と、大地に拘束されない足取りの軽さを反映し、ひたすら無責任に疾走するところにこそ、存在しています。

そういう文脈から言えば、ジプシー・ミュージックは、ワールド・ミュージックの語から連想される、定置された地域性とは相容れない相貌をもって現れます。

遡れば18世紀に起源し、イベリア半島の南部アンダルース地方に萌芽したヒターノ文化の結晶であるフラメンコ、20世紀初頭に出現した天才ギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトが切り拓いたジプシー・スウィング、19世紀以降の伝統を踏襲するハンガリーで確立されたクラシックを流麗かつ精緻に操るハンガリアン・ジプシー・アンサンブル、南仏発で1980年代後半にブレイクしたジプシー・キングスなど、彼らの音楽のヴィアタルな多様性は、ひとつのカテゴリーやフレームワークに収まるものではありません。

さらに1990年代に入って、ルーマニアから世界の現前に登場した脅威の弦楽集団、タラフ・ドゥ・ハイドゥークスによる荒削りながらも圧倒的なエナジーの塊には、世界が絶句し驚愕しました。イヤ、彼らのライブの、それはそれは楽しいことといったら!
これを追うように登場したおなじルーマニア北東部の管楽器集団、ファンファーレ・チョカリーアは、超高速の管楽 (ブラス) の共鳴によって、ジプシー・ミュージックの次章への展開を急き立てました。

そうなんです! 居住地の異文化へと侵入し、それを収奪/剽窃し、いつの間にか変容せしめて己の身体内血流へと取り込んでしまうジプシー・ミュージックの真髄が、ブラスバンドにもっとも顕著なのです。
元来、権力の表層としての軍楽に由来するブラスバンドの様式を借用し、平然とジプシー・ブラスへと置き換えてしまう図々しさや逞しさのなかにこそ、その魅力が隠されています。

ルーマニア北部には、ファンファーレもしくはファンファーラの名を冠したバンドが、数十もあります。金管職人までがいて、楽器そのものをさえ変造しかねないこの地のジプシー/ロマが生み出すブラスの響きは、強靭にして非常識です。
マケドニアで、もっぱら宗教祝祭や結婚式に駆り出されるオーケスターには、スラブとトルコが共存しています。
ブルガリアのブラス・オーケストラ、カランディーリャや、イヴォ・パパゾフにいたっては、表層的な装いはほとんどエイジアン・テイスト、つまりトルコ仕様で、加えて強力な変拍子が聴く者を最初は混乱させ、しかし次第に虜にしてしまいます。

そして、セビリア。
この南部スラブ文化の塊のような地で40年余も続くブラス・フェスティバルである、サボール・トゥルバーチャ・グチャに見られるジプシー・ミュージシャンと非ジプシーの聴衆/客との関係性こそが、ジプシーという民族の成り立ちを見事に映像化しています。
ジプシーにとってそれは、けっして定置された景観ではなく、他人の祝祭への闖入であり、自らの稼ぎ場所なのです。
現代において、旅をやめてなお、旅する集団であり続けるジプシー/ロマの音楽は、文化の言説的な規定に対する、無意識ながらの強烈な反骨精神を表し、翌日にはそこを去っているのでした。


あ〜、気持ちよかった!



Fanfare Ciocarlia / Manea Cu Voca

0 件のコメント: