2007年2月12日月曜日

音楽紹介業としてのレコード屋


関西のとある老舗レコード店主が、この稼業はちっとも実入りがええことないのに、その厳しさを知ってる若い人にかぎって独立したがる、とのたまってました。
開店して25年になるこの店から、ここ数年で番頭クラスの店員が相次いで4人も独立し、自分でレコード・CD店をはじめたのだそうだ。           
オレの世代で開業したレコード・CD店主は、音楽やレコードを好きだから常に接していたいということと、努力と才覚さえあればなんぼでも面白い商売を展開出来るかもというロマンチックな願望から、手探りではじめた人が多いです。
ところが、です。90年代以降、状況がどんどん悪化するなかで、既存のレコード店での修行を経て、この業界の酸いも甘いも分かったうえで独立した30歳代の若者たちが、あまたいるんですよ。
彼らにこの稼業を選ばせたものは、なんだったんでしょうかね?

ひとつ言えるのは、彼らの誰もが、自分が投げ込んだ石で社会的に大きな波紋を起こそうなどとは考えず、せいぜいが自分と仲間たちの楽しみとして、ささやかながらも手堅く商売を続けていこうとしていることです。だから、彼らは、まず、自分自身にとって居心地のよい空間を築こうとしているように思われます。
ただ、居心地のいい時間と空間とを求めるのなら自分の部屋ででもくつろげばよいことで、どーしてまた好んで、実入りも少なくリスクも多く経営の安定しない中古や輸入のレコード屋などをはじめるのか。

『なんでも鑑定団』というテレビ番組がありますな。
なにやら胡散臭い鑑定士たちのなかでは、北原照久というおもちゃ鑑定士が、オレは好きです。なぜなら、北原さんが価値の基準として最優先するのは、コレクターたちの品物に対する思い入れの度合いだからです。
彼はきまって、「その品なら○万円払っても欲しいという人はきっといます」と言います。つまり、彼の品物にたいする評価は、あくまでそれを求める人の気持ちによって決定され、社会的に評価が定まっているわけではけっしてないことを窺わせます。
一方で、西洋アンティーク鑑定士の某というなまずひげのオヤジは、いつでも歴史的評価や、由緒正しさや、伝統や、ブランドという社会的評価を、持ち出すんですね。挙げ句の果てには、「まだまだこれから価値が高まるから持っていらしたほうがいい」などと言う…。
評価のベクトルが、まったく逆です。換言すれば、本音の拝金主義をさまざまな権威づけでカモフラージュしているだけなのですね。
このなまずひげオヤジほど露骨ではないにせよ、世の鑑定士と呼ばれる人々の多くは、知識を武器にモノに社会的な評価を確定させます。
あのバブル経済の時代、雨後のたけのこのように乱立したレコード店の多くも、一種の拝金主義に毒されたセレクト・ショップでした。社会的(業界的)に評価の定まったいわゆるレア盤を、途方もない「標準的な」プライスをつけて展示し、個人としての思い入れとは関係なしに、死ぬまで真剣に聴きもしないようなレコード収集に客たちも翻弄させられていたのでした。

そこには、もはや、レコード屋本来の目的であるはずの音楽を提供する姿勢など、ありませんでした。
そもそも、盤の希少性と音楽的な価値とは、無関係です。個人の感性に訴える音楽なればこそ、人によって評価が異なって当然なのですから。人の数だけ名盤があって当然。たとえ値段のつかないような駄盤でも、ある人にとっては終生忘れえぬ名盤であることは、よくあることです。

オレは、レコード屋とは、音楽紹介業だと思っています。
中古盤を取り扱っていれば、国や地域や時代を越えてさまざまな音楽が集まってきます。国内盤として発売されるCDの種類も数多いし、さらに輸入盤ともなれば、世界各地の文化を反映した数え切れないくらいのディスクが日々発売されているわけで。
わずかな情報が載った膨大なカタログから、店にとって、お客にとって、そしてなにより自分にとっての宝物となるような音楽を選びとり、解説し、展示してゆく…。自分が介在しなければ、けっして人の目に触れず、人の耳に響かず、人の心に刻みつけられるようなことのなかっただろう音楽を紹介し、彼らの人生になんらかの刺激を与える。
その喜びは、なにものにも代えがたいもんやと思いますよ。
けっして、あらかじめ設けられた価値ではなくて、その評価は、オレたち客とともにつくっていくもんですわ。
おそらく、若いレコード店主たちも、その歓びゆえに、先輩の志を受け継ごうと考えたのだと思うのでした。


昨日、日帰り広島出張。往復の新幹線は、ずーっと、70年代NYサルサを聴いてましたわ。サルサ誕生の瞬間ですな。
その中心、ファニア・オールスターズは、今もって最高にかっこよくて、全然色褪せてないです☆
あのころのサルサは、こんなにもゆったりだったのですよ。



FANIA ALL STARS / 『Nuestra Cosas (Our Latin Things)』

0 件のコメント: