2006年1月16日月曜日

職人か、商売人か





和歌山で桐簞笥をつくっている職人さんと、縁あって仲よくしています。

彼に言わせると、つい10年前は、職人になってくれる若い人がいてなくて後継者問題が最大の課題になっていたけど、最近は、若い職人希望が増えて、門を叩きにくる人が多いのだとか。

オレも、彼女が若いせいもあって、20代前半の人たちと接する機会が増えてきているんですが、おなじことを感じますね。

終身雇用の時代も終わり、給料が右肩上がりの時代も終わり、それならサラリーマンの管理社会で生きていく意味もあんまりないんじゃないか、ってことなんでしょうかね、職人さん希望が増えてるみたいです。

オレが20代前半だったころはバブル全盛の時代ですから、みんなよってたかって証券会社だとか銀行だとか保険会社に殺到してました。それからすると、時代は変わってきてますね。山一証券もつぶれちゃったし。

就社の時代から就職の時代になりつつあるのですかね?

最近、面白い本を読みました。
『職人暮らし』原田多加司著 ちくま新書700円。

著者は、230年以上続く桧皮葺・柿葺職人の10代目で、大学を出て10年ほど銀行員をして、その後、家業を継いだのだとか。

サラリーマンと職人の両方を経験されているので、双方を明快に比較してくれているのが、この本の特長です。

たとえば、サラリーマンの給与は年功的に上昇していくけれども、職人の場合は、1人前になるまでのあいだだけ年功的で、その後はフラットになる、と。

一概には言えないけれど、大雑把に言うと、そういうことになります。

宵越しの金は持たない、という職人イメージはじつは実態とかけ離れていて、じつは、しばらく仕事を干されても生活出来る程度のカネは蓄えていないと、意に反するような仕事もしなければならない、というのは、なかなか耳の痛い話でした。

実際、仕事を断るのは勇気が要ります。断れば、ヨソにまわされてしまうし、一度ヨソにまわされてしまった仕事は、容易なことでは取り戻せませんから。だから、耐震強度計算書を偽造してでも…、って発想にもなるんですけどね。

オレもまた、職人であります。
高校生くらいのころから、自分は、某かの文章を書いていくことで生きていくのだ、と、決めて、そのまま今に至っています。

ただ、職人仕事というのは、昨日の上に今日を淡く塗り重ねていくような、地道で景色の変わらない毎日の積み重ねでもあるのです。
そこまで、没頭出来るかどうか。

オレは、出来ません。
日本語を書き連ねていくことだけなら、四六時中でも、何年でも、出来ます。
でも、それが仕事となると、どうしても、変化がほしくなる。

だから、かどうかは判然としませんが、オレの仕事は、職人仕事半分、商売人仕事半分、とうかんじです。
どちらかに振り切れてしまうと清々しくていいのかもしれないし、何度か、どちらかに振り切ってしまおうとしたこともありましたが、どうやら、両方を行ったり来たり、バランスよくやっていくのが、オレの資質のようなのです。

実際、紙切れ1枚で能書き垂れて、代理店をだまくらかしてカネ出させるようなモンキービジネスも、たまらなく好きです。あれは、快感です。

ちょっとした思いつきがあって、それを企画書にして、それを実現するためのカネを出してくれるところを探して、口説いて、かたちにしていく…、そんな作業も大好きです。
大好きですが、それはもはや職人仕事ではなくて、商売人としての仕事の範疇に入ってしまいます。

でも、よくよく考えてみると、
自分は職人的な仕事をしたいがために、商売人的な仕事をあえてやるのだな、という気もします。
日本語を書き連ねるという大好きな仕事を安定的に継続してやっていくために、その支えとして、商売人的な仕事をやっているのだという気がします。

なにか、とっ散らかった話になってしまいましたが、オレは職人なのか商売人なのか、ということを自問自答しつつ、今日も仕事するオレなのでした。


似たような立ち位置に、ムーンライダーズというバンドがいます。
バンドのメンバー全員がプロデューサーで、おそらくそちらのほうが収入が多いでしょう。
でも、自分たちの好きな音楽を好きなバンドでやり続けていくために、プロデュースからなにから、なんでもやるんですよ。そのためなら、アイドルのバックバンドまでこなすバンドですから。
で、いつのまにやら、プロデュース作業のほうの夢中になってしまって、本業であるはずのムーンライダーズは開店休業状態、なんてコトにもなったバンドです。
60年代から活動していて、今もまだ現役です。ポップミュージックのフィールドでは、間違いなく日本最古の現役バンドでしょうね。
ちなみに、ヒット曲は、ありません。レコード会社も、何度移籍したかわかりません。
でも、大好きです。



ムーンライダーズ / 『大人の悩みに子供の涙』

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