2007年3月12日月曜日

『女はみんな生きている』


久しぶりに、お仕事でDVDを観る。
いや、爽快! スッキリしました! まさにまさにまさに、こんな映画が観たかったのでした!

ハリウッド映画や日本映画の、その細部に宿るさりげないジェンダーの保守性に、どうにも辟易することが多いんです、オレ。
男の役割とか、女の役割とか。きらいなんですわ、そんなん。名作やヒット作といわれる映画に往々にして見受けられる、ステロタイプな役割に甘んじる男女…。それって、単なるアホやん!といった類いのヒーローやヒロインが多過ぎるんですよ。まあ、音楽同様、観衆が安心出来るところにカネはついてくるということですかね。サラリーマンと専業主婦、子供2人の「健全な家庭モデル」を頑なに保ち続けるためには、あまり刺激や毒が強過ぎてもダメってことですか(笑)
安寧秩序どこ吹く風のブニュエルやアルモドバルが日本でさほど売れないのも、むべなるかなです。

でも、人生も世界も、そんな具合に簡単には出来ていません。

原題は『chaos』。
名付けられた邦題は『女はみんな生きている』なんですが、むしろ、「男はみんな死んでいる」とでも言いたくなるような、男どもの堂々たる情けなさっぷり、バカっぷりが描かれてます。
こう書くと、世の大方の男どもは尻込みするやもしれませんが、非日常的悲劇的事件を描きながらも、喜劇的な、あるある、この感じ~☆のオン・パレードです。
偶然の出会い、笑い、涙、スリル、アクション、先読み不能な展開、感動…。いや、全部詰まってるなあ☆

子育て奮闘記の名作『赤ちゃんに乾杯!』や、黒人掃除婦と白人実業家の滑稽な愛の行方を描いた『ロミュアルドとジュリエット』など、女性喜劇監督のコリーヌ・セローが描く物語は、どれも極上の人間讃歌です。
人生に同居する悲劇と喜劇が、バビロンのカオスを洗い出してゆく、えもいわれぬ痛快な小気味よさに、男のオレは断然拍手を送りたいですね。マチズモも自称フェミも、全部粉砕してくれ!

舞台はパリ。主婦エレーヌ(カトリーヌ・フロ)は、夫のポール(ヴァンサン・ランドン)とわがままなひとり息子ファブリスから、ほとんど家政婦扱いされている毎日。
ある夜、エレーヌとポールがディナー・パーティへと車を走らせているとき、通りを血塗れの娼婦ノエミ(ラシダ・ブラクニ)が必死の血相で駆けてくるんですわ。ノエミは殺気立った数人の男たちに追われ、殴打されてます。開けて! お願い! 車の窓ガラスを叩き、助けを求めるノエミ。でも、筋金入りのことなかれ主義者のポールは、即座にドアをロックし、救急車を呼ぼうとするエレーヌを制止、血の付着した車を洗車するために走り去るのでした。

翌日エレーヌは、病院をしらみつぶしにあたり、ノエミの行方を突きとめます。集中治療室で瀕死の危篤状態にあるノエミの凄惨な姿を見たエレーヌは、どうしても立ち去ることが出来ず、家庭も仕事も放棄して、そのまま病院に泊り込みで介護をはじめるのですよ。

で、病院の周辺をうろつく売春組織……。

一転、エレーヌの不在に怒りわめくダメ亭主とドラ息子……。

エレーヌの献身的な介護により回復してゆくノエミは、次第に、アルジェリア移民である自らの複雑な生い立ちを語りはじめます。政略結婚からの逃亡。売春組織との出会い。ヘロイン浸けの娼婦の日々。大富豪から騙し取った莫大な遺産。その遺産を横取りしようとする組織……。

そしてついに、ノエミとエレーヌの宣戦布告、全面戦争がはじまるんですけどね♪

平凡な主婦であったエレーヌは、会社経営者である夫と何不自由のないリッチな生活を送っていたわけです。でも、すべてを持っているようで、なにも持っていない空虚な生活。
その空白を埋めるがごとく突然現れたノエミによって、エレーヌがいよいよ自らのために人生を生きようと思い立つんですわ。

自分勝手で無感動な仕事人間、しかもその厄介さにまったく気づいていない間抜けな男たち。常に解放されるべきは男たちであることを、声高に訴えるでもなく、絶妙なストーリー・テリングのサスペンス・コメディ・タッチでさりげなく提示してみせるセロー監督の、切っ先鋭いセンスが、じつにじつに冴えてます。要するに粋なんですね。しかも演出の上手さか、ダメ亭主が、どこか憎めない(笑)

「こういう男性は、とにかくいっぱいいます。忙しそうにしていて、実際はなにもしていない。私は彼らを描くだけでジャッジしているわけではありません。私は、男性をかわいそうだと思うことがあります。男らしくしろ、強くなれと言われて……。(中略)女性のなかの男性的なところは仕事で出すことが出来ます。ところが、男性が女性的なところを出すことは認められない」
「私たちが生きている社会のいろいろな状況の一部を切り取りたい。そのうえで、娼婦の問題、家庭の問題、移民の問題、マフィアの問題などといった社会的な意図も込めたかったのです」

監督のコリーヌ・セローは、そんなことを言ってます。

娼婦ノエミ役のラシダ・ブラクニの、知的で凛とした美しさやスタイル、俊敏なアクション(なんと陸上のフランス代表!)も魅力なんですが、なんといっても、主婦エレーヌ役のカトリーヌ・フロの、悲喜こもごもあわせ呑んだ演技に目が行きっぱなしでした。彼女が主役でキャスティングされた映画を、ぜひぜひ観たいです!

静かな余韻たたえるラスト・シーンの力強さ。
気持ちのいい苦味。
再生への希望。

もっかい観ます! 3回は観れます☆

公式サイト(なんちゅーURLや! 笑。)
関西より東は、終わっちゃってます…。。。




super junkey monkey / Bucking A Bolt



睦美ちゃんが亡くなって、もう何年になるんかなぁ。。。

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