2007年5月21日月曜日

『赤ちゃんに乾杯』


3月に、DVDで『女はみんな生きている』を見て、監督のコリーヌ・セローがいたく気に入ったオレです。

その、コリーヌ・セローの出世作でもある『赤ちゃんに乾杯!』が、こないだ、深夜のテレビで放映されてましたな。録画したのを、昼間、観てました。
1985年度セザール賞の最優秀作品賞、脚本賞(監督自身)、助演男優賞(ミシェル・ブージュノー)受賞に加え、本国フランスではそれまでの映画興行記録を塗り替える大ヒットとなり、社会現象にまでなったという触れ込みの喜劇作品です(パリだけで600万人動員!)。

独身貴族生活を謳歌していた男3人がいきなり赤ん坊の世話を押しつけられ右往左往するという、てんやわんやの爆笑子育て奮闘記なのだけれども、なによりも、ジェンダーの役割分担を幼いころから教育されてきている男たちに、本来あるべき「母性本能」が目覚めてゆくという設定は、ありそうでなかなかないですな。
というか、コリーヌ・セローという監督は、ジェンダー間の差異をコミカルに浮き彫りにさせる手法をとらせたら、右に出るものがおらんです。

日々の心情の変化、表情の機微が、巧妙にきめ細やかに描き出され、滑らかなストーリー展開もじつに絶妙で、男たちの愛らしい姿、輝きを捉える人情味溢れる監督の視座は、フェミニズムのひとことで片付けることは出来ません。
愛すべき人間たちの洒落たやりとりと、素敵なばかばかしさが、ここにはあります。
コリーヌ・セローって、やっぱりただ者ではないですよ。視点がね、単視眼的ではなくて、びっくりするくらいに複眼・重層的で、かつ、ユーモアに溢れているところがね。

舞台はパリ。
国際便の男性乗務員ジャックと、広告代理店勤務のピエール、漫画家のミシェルの3人は、高級マンションで部屋をシェアし、優雅な共同生活を満喫しています。誰にも束縛させない、仕事とオンナとパーティの独身貴族生活。
ある日、ジャックは、友人のポールから、日曜日に部屋へ届けられる小包を誰にも言わずに木曜日まで預かってほしいと、頼まれます。

日曜日。
ジャックは早朝の東京行きの便でパリを発つんですが、小包の件を聞いていたピエールとミシェルの元へ、なんと生後6ヶ月のかわいらしい赤ん坊、マリーが届けられます。マリーのバスケットには「ジャック、私たちの愛の結晶です。6ヶ月間ニューヨークへ行っているあいだ、面倒を見てください」と、モデルのシルヴィアがしたためた手紙が添えられています。
でもジャックは、日本で仕事を終えたあと、タイで休暇旅行。勝手がわからず思案に暮れるピエールとミシェルに、こうして悪戦苦闘の子育ての日々がはじまるのでした。

当然、男たちは子育てのことなどあずかり知らず、まったくの無知。ミルク、哺乳ビン、オムツ、育児書などを買い込み、互いに押しつけ合いながら、試行錯誤の連続。否応なく、マリーとの眠れない日々ですよ。それを他人事のように観ているオレは、というかこちら側は、爆笑(笑)

仕事を休み、デートもキャンセルし、「オムツ」も「授乳」も「寝かしつけ」も「お風呂」も板に付いてきた木曜日、ついに、2人の元へ小包を受け取りに、男たちが訪ねてきます。でも、この男たち、かぎりなく怪しい。。。
2人はいったん彼らにマリーをわたすも、日曜日にもうひとつの小包を受け取っていることを思い出したピエールは、その中身がヘロインであり、そちらが男たちの目当てであることに気づきます。大慌てでマリーを取り返しにいくんですが、その騒動の際、ピエールとミシェルを怪しんだ警察が動きはじめてしまうのですよ。
ヤクの売人たちの急襲と警察のガサ入れ…。
なんとか難を逃れた2人のもとへ、ジャックが帰ってきます。そっから先も、マリーに振りまわされる3人の、昼夜交代のドタバタ育児生活は続くんですけどね。

そんなこんなで6ヶ月が過ぎ、ニューヨークから戻ってきたシルヴィアが、マリーを引きとりにきます。育児から解放された3人は、仕事とオンナとパーティーの独身貴族生活に舞い戻るんですが、なぜかマリーのいない生活に、仕事にもオンナにも気が入らず、消沈の虚ろな日々を送ることに。ピエールなんか体調まで崩し、ベッドに突っ伏す始末ですわ。
そう、彼ら3人は、育児の大変さと幸せのなか、マリーを心から愛していたのでした……。

生後6ヶ月の赤ちゃんをマンションの部屋のドアのところへ置きっぱなしにしたまま6ヶ月も海外へ行く母親というのは、なにやら例の事件を想起させるものがあり、この時期にテレビ放映されたのはシンクロニシティの妙を感じないでもないのですが、封切り時、監督はこんなふうに言ってます。
「今まで男性は女性に対してああいう仕打ちをしてきたのです」
そう、モデルのシルヴィアは、もちろんニューヨークで仕事があるということもあったのでしょうが、自分勝手なジャックに対する仕打ち、という意味合いでジャックに育児をさせたかったのではなかったか。
もちろん、玄関に赤ちゃんという行為は推し量りかねるものがあるんですが、世の男たちが育児と家事を押しつけ、女性が育児ノイローゼになるという図は、昨今の日本でもよく見受ける光景ではないですか。

右往左往しながらも、次第に育児の大変さのなかに幸せを見出してゆく男たち。
男のみならず婦女子さんまでもがジェンダーの役割分担に納得している現状に、少なからず風穴を開けようとする監督の狙いは、この映画では大成功してます。

破顔の、ジェンダー解放歌ですね、この歌は。

なお、この映画は、ハリウッドがリメイク版をつくってます。『スリーメン&ベイビー』と、その続編の『スリーメン&リトルレディ』。
あと、『赤ちゃんに乾杯!』って、日本のドラマのタイトルにもあったような気がするので、それもリメイクなのかも。どれも観てませんが(笑)

で、肝心の本家『赤ちゃんに乾杯!』の続編『赤ちゃんに乾杯 18年後!』があるのですが、これは日本に入ってきてるんですかね? 未確認です。観たいのですがね。



そんなわけで、本日はフランスから、オレの大好きなレ・ネグレス・ヴェルトを。
ラテン伊達男のアホアホが堪能出来ます☆


Les négresses vertes / Voilà l'été

0 件のコメント: