2007年9月16日日曜日

向かいの安スナックの肥満した中年女との肉弾戦が延々と50ページも展開される小説


そのむかし、『バトル・ロワイヤル』という小説がありまして、映画にもなったのでご存知の方は多いと思います。
映画のときも16禁だR指定だと騒動になってましたが、原作の小説は、じつは、日本ホラー大賞なる賞の落選作なのですね。
作品の出来ではなくて、選考委員の「こういうことを考えるこの作者自体が嫌い」(林真理子)だとか、「非常に不愉快」(荒俣宏)だとか、まったくもって理不尽な生理レベルでの好き嫌いが落選の理由となったのですが、そのこと自体が作品に箔をつける結果となり、ベストセラーになったのは多く人が知るところで。

さて、今年、あんときの拒否反応に匹敵する作品が現れましたな。
飯野文彦著『バッド・チューニング』


「あまりにも後味が悪くてイヤ」(高橋克彦)
「負の部分がドドドッとイヤなかんじで流れ出てくるような作品」(林真理子)

良識派の顰蹙を買いまくっているようです。

宣伝文句が、奮ってましてね、
「全身びらびらの風俗嬢、じじいの血痰攻撃、黒い乳首と股間のアフロヘア。自称、敏腕、基、Bワン探偵の私が垂れ流すアルコールとアンモニアの妄想の果てに…、ピンサロのドストエフスキーが放つ最下流文学」。

主人公の「私」は、西武新宿線新井薬師前駅徒歩5分(JR中央線中野駅徒歩5分)の老朽マンションに自宅兼事務所を構える自称・私立探偵(自称・元刑事)。
歌舞伎町のピンサロから淫乱風俗嬢を連れて帰ったところ、ふと気がつくと、彼女が腐臭漂う死体と化していたのですね。

いったい誰が彼女を殺したのか? この死体をどう処理するべきか…。
というふうなミステリー方向へ話は、まったく進まずですな、マンション管理人の変態ジジイとのろくでもない対決を経て、本筋とはほとんどなんの関係もなく、向かいの安スナックの肥満した中年女との肉弾戦になだれ込んでいきます(笑)

延々と50ページも続くこの格闘場面こそ、この作品の肝になってましてね。いやもう、すごいことになってますから(笑)

ストーリーじゃなくて描写で読ませる小説(ということは、王道的な作品でもあるのですが)なので、とても『バトル・ロワイヤル』みたいなベストセラーになることはないんでしょうが、今んところ、今年に読んだ小説では、ダントツですな☆

表現にね、モラルとか良識なんてモノを持ち出す人は、大嫌いです。
口当たりのいい言葉はあってもいいけれども、癒しがあってもいいけれども、そんなものと表現の本質とは、まったく関係がないです。
そんなものは、世のなかに任せておけばいいのであって、表現は、モラルやインモラルを超えた地平で存在するべきものです。そういう場所で、触れる人の精神にグサグサとナイフを突き刺すような、触れるまえと触れたあとではなにかが変わってしまうような、そういう作用を持った薬剤こそが、優れた表現だと、オレは信じています。

ところで東京在住の皆さん、新井薬師という街は、こんなにもカオスな街なのですか?(笑)

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