2007年9月22日土曜日

革命家が誕生するまで




知り合ったばかりのカルロスと、道路脇のブロックに寄りかかって、通り過ぎる人を眺めていたのでした。夜には、地元のディスコに行くことにしていて、そのまえに、婦女子さんを調達しようと、待っていたのでした。カルロスが言うには、キューバの婦女子さんは外人に弱く、誘えば必ずついて来るらしい。

それは本当で、まもなく、ふたりの女子高生が立ち止まってですな、カルロスによると、ひとりは東ヨーロッパからの移民、もうひとりは白人と現地人との混血である、と。
オレは、褐色の肌に釘付けで、カルロスは白い肌に生唾を飲んでましたな(笑)
彼女たちはノーブラで、乳首が薄いタンクトップを押し上げていて、季節は夏で、それこそね、真夏の花火を、今夜ぶっ放そう!花火よ、太陽よりも高く、高く、宇宙に広がれ!ってかんじで(笑)

そうやって、オレとカルロスは、婦女子さん2人と夜に待ち合わせをする約束をしてから、とりあえずは、一旦のおわかれをしたのでした。

それにしてもね、長い旅をしていたとき、そりゃどこに行っても楽しかったですけれども、キューバに着いたときはね、よくぞここまで来たぜ!ハバナよ!なんて、思ったものでした。
ついに、来たぜ! 自由の国キューバ! 革命の国キューバ! 
いまだにね、ゲバラの名を口にすると、涙が出そうになります。吠えながら、走り出したくなります。自分のしていることが全然小さく感じられて、ゲバラの名を聞くと、ただただ、永遠だとか冒険だとか、情熱だとか爆音だとか、自分の信じていることをね、思い出させてくれるのでした。

ハバナという街は、その名の響きが持つ、自由で開放的な雰囲気そのままの町です。
建物は壊れるままに古くて、暮らしは貧しくて、でも、そこが神に愛されている土地だということは、誰の目にも明らかです。日が昇れば、生きていることを思い出し、月が出れば、眠る。そういう土地。

夜までの時間が、長かったですね。さっき会ったばかりの婦女子さんたちの薄いタンクトップ越しの乳首に思いを馳せながら、カリブ海沿いの道を歩いていると、波のようにね、欲望が押したり引いたりしたもんです。
股間だけでなく、身体全体が火照ってました。
乾いたシーツを湿らせるふたつの身体は、地上に残った最後の情熱だ! なんてことをですな、覚えたての拙いスペイン語で叫んでたりしてました。闇夜の咆哮ですよ(笑)

今は、その情熱を頼りに生きるのだ! オレの目のまえには、太く長い矢印が見えていて、その、黄金色の矢印は、遙か彼方へと伸び、たったひとつの大切なメッセージを伝えていたのでした。行け、やれ!と(笑)
いやー、あのころは、妄想までもが、なにもかもが、楽しくて仕方がなかったな(笑)

夜が来るまでの時間、ヘミングウェイが通ったバーで、彼の愛したモヒートを飲んだのでした。強いカクテルで、アルコールがからっきしダメなオレには、舐めるのが精一杯ですよ。それでも、めちゃくちゃキツかった。かっこつけるということはキツいことなのだな、と、そのときもまた思ったもんです。

革命博物館で、ゲバラとカストロが、メキシコからキューバへと乗り込んだときに使ったヨットを、見たのでした。まだ20代だった彼らの情熱は、そのヨットに乗って、キューバに上陸したのです。
愛する人と、生きながらにわかれたこともあっただろう。恋の思いを秘めたまま、去ったときもあっただろう。愛してもいない婦女子さんと、やりまくったときもあっただろう。キューバに来る前にも後にも、いろいろあったに違いない。いろいろあったけれども、彼らの一生は、たったの1行で、言い表すことが出来ます。
「革命のために生きた男」。

出来ることならね、オレの一生も、1行で言い表わせられるものであってほしい!

モヒートの残り香に少し頭をクラクラさせながら、町を歩いたのでした。古いヨーロッパ調の町並みの狭い路地を歩いていると、短パンだけの男たち、水着姿の婦女子さんたちが、日陰や庭の奥で涼んでいたのでした。怪しげなスペイン語で声をかけながら歩き、はにかまれたり、無視されたり、英語で握手されたりして、また歩いたのでした。

約束の9時半に少し遅れて、カルロスが迎えに来てね。彼は、目をキラキラさせて、夜が来たことを喜んでましたわ。待ち合わせの場所まで歩き出すと、蒸し暑さがまだ残っていて、しばらく歩くうちに汗がシャツを湿らせはじめて、熱帯特有の、熟れた果実のような空気に包まれていたのでした。
約束のガソリン・スタンドで昼間に約束した女子高生たちを待ちながら、カルロスとオレは、お互いのことを話しはじめたのでした。

彼は、ハバナに生まれ育ったけれども、お父さんはアメリカにわたり、マイアミに住んでいる。お母さんとカルロスはハバナに残り、いつか、お父さんのいる豊かなアメリカに住むのを、夢見ている。カルロスは、最近まで野球の選手だった。プロ野球のないキューバでは最高のリーグにあたる1部リーグで、彼はプレーしていた。今は、ガイドをしたりして、ブラブラ暮らしている。背が低くて童顔だが、見かけよりは歳をとっているらしい…。

彼は、オレのことも聞きたがりました。そうやって世界中を気ままに旅してるなんて、キミはきっとお金持ちなんだろう、と、彼は言ったのでした。それは、今まで訪れた土地で出会ったすべての人たちからも言われたことで、日本にいれば、きっと、一生、お金持ちと言われることはないだろうけれども、でも、ある国の人にとっては、一生かかっても稼げないような大金を持って、オレは旅をしていました。
キミはお金持ちなんだろう。そう言われると、とりあえず、違う、と、言うのですが、彼らにとっては、それはウソです。

しかしですな、そのときのオレたちにとっての一番必要な情報は、互いのバックグラウンドではなく、もっと目のまえにある現実的な情報の交換のはずです! すなわちそれは、これからやって来る2人の柔らかい身体の分配について! オレは褐色のムラートを希望し、カルロスは東ヨーロッパの白い肌を欲し、話は、すんなりまとまったのでした。

そして、婦女子さんたちは、やって来ませんでした…。
上手い話というのは、そう簡単には転がっていないのだな、ということを、オレは、このとき、身をもって知ることとなったのですよ。。。

で、失恋した中学生のように肩を落として歩いき、とりあえずはディスコには行こうということになったのdけれども、ても、気分は盛り上がってきませんでした。カリブの無人島に漂着した気分でしたよ。

ディスコは、外国人用の高級ホテルの近くのビルの半地下にありました。オレたちが着いたころはガラガラだったのだけれども、夜の1時を過ぎてからはいっぱいになり、いろんななジャンルのダンス・ミュージックで、すごい熱気となったのでした。

やっぱ、サルサが流れると一気に盛り上がって、カウンターや隅でビールをちびりちびり飲んでいた男たちも、一斉にダンス・フロアに乗り出してきては、婦女子さんの手を取って、踊りはじめるのでした。
まるでね、津波のような光景ですよ! キューバ人ほど、音楽とダンスの神に愛された人たちは、いないですな。オレは、震えるほど感動して、この光景を、一生忘れないだろうな!
キューバは、神なき共産主義の国だけれども、ゲバラもカストロも、音楽とダンスの神の存在だけは、許したのだと信じますね、オレは。

一緒に踊ろう!と、オレの手を引っ張ったのが、ベターニア。カルロスを振り返ると、行ってこいと!ウインクを返されました。メスティーソ(混血)の彼女は、白人の血のほうが濃くてですな、歳を聞くと、17だと答えたのでした。オレは、まず、彼女の胸に圧倒されましたですよ。デカい!

サルサは、男がリードしなくてはならくてですな、でもオレは、そんなの踊ったことがなくて、だから、でたらめに楽しんだのでした。ベターニアも、笑顔で踊ってましたな。
ハバナの夜が、今、はじまったのです! 永遠の夜が、今、開かれたのでした。

見わたすと、婦女子さんたちは、レオタードや水着のような姿で踊っていて、身体の線をはっきり出して、腰や尻を男に押しつけて踊ってます。熱気に霞んで、店の奥のほうがよく見えないくらいで。
ベターニアは、オレのまえで笑顔で踊り続けてます。それにしても、デカい!(笑)
昼間の女子校生もよかったけれども、今、目のまえには、デカい胸が揺れていて、なんだか、それだけで大満足でしたな(笑)
そうやって、朝が来るまで、ベターニアと踊り続けたのでした。

キューバの人たちは、かつて、奴隷として働かされていたころ、辛い労働が終わり、家に帰ると、ダンスをしたといいます。辛い労働によって冒された疲労などではなく、正当な疲労と、誇りと、希望を、自らの身体に取り戻すために、ダンスした、と。
そして、その、正当な疲労を身体に充填させて、眠るのですね。
オレの疲労は、キューバの人たちのダンスほどに、正当だろうか? もちろん、正当に決まってます。そう思ったとき、ハバナにいるのだと、思ったのでした。




以上、久々にやってしまいましたが、前置きです(笑)
さて、なんで延々とキューバに上陸したときのことを書いているのかというと、
チェ・ゲバラに思いを馳せているからなのでした。

ゲバラは、アルゼンチン人ですが、若いころ、南米大陸を旅し、世界を覆う矛盾の現実を目の当たりにし、彼なりの社会正義を持って、革命に身を投じたのは、有名な話です。
そして、そのゲバラが若いころに行った南米大陸の旅を描いたのが、『モーターサイクル・ダイアリーズ』。オレは本を何度も読んで知っていたのですが、先日、相方さんが映画を見ていたく感動したらしく、映画は見ていなかったので、それならオレも見ておくかな、と思って見たのが、昨夜のことでした。

まだ23歳の医学生だったエルネスト・チェ・ゲバラは、親友アルベルトとともに中古のおんぼろバイクに乗って、南米大陸を縦断する冒険の旅に出ます。
それは、金もなく、泊まるあてもなく、好奇心のままに10,000キロを走破する無鉄砲な計画でした。
喘息持ちのくせに恐れを知らず、冒険心と情熱的な魂で旅を続けるゲバラの目に映ったものが、のちの彼を革命に走らせる原動力となり…、と書けばかっこいいし、それはそれで事実には違いないのでしょうが、この映画は、そんな後年の彼にダブらせるような神の視点を持たずとも、いや、そんな視点を持たなければ持たないほどおもしろい、青春映画そのものなのでした。

女が好きでね、それも節操がなくてね(笑)
そりゃ、悲惨な貧困や矛盾を目の当たりにして、彼の単純だった正義感がタフなものに熟成されていく過程を見てとることも出来るのだけれども、それよりもやっぱ、恋をしたり、他人の婦女子さんを寝盗ったり…(笑)
人間的な臭みとね、ロマンチックとね、まっすぐな正義感とがね、ないまぜになっているのですよ。
そこがね、いいなあ、と。
人間ってさ、理念だけじゃ動かないじゃない。そこに人間的な魅力がなければ、どんなに崇高な理念であっても、人は動かないですね。
そのあたりね、この無類の女たらしは、女たらしたることで、人間的な魅力を培ってきたのだな、と、そんなことが読み取れて、すごく素敵な映画でしたよ。

それにしても…、革命ってのは、なんなんでしょうね。
ましてや、ゲバラはアルゼンチン人であり、キューバの惨状とはなんら関係なく、彼はアメリカでカストロと出会ったことで、行きがかり上、キューバ革命に参加したとも言えます。
正義感に支えられた、彼のロマンです。
それがなぜ、かくも世界中で支持され、イコン化していくのか…。
人間がね、人間を説得していく。それが革命の原点だとしたら、人間としての力が破格でなければ、革命もなにもないのだな、ということが、革命家として産声を上げる以前の彼が登場するこの映画を見ていて、オレは思ったのでした。

そして、モーターバイクで疾走するのは、南米の埃っぽくもあり、雄大な景色。
この景色を見るだけでも、この映画を見る価値があります。

ああ、彼が愛したキューバに、また行きたいなあ。。
結局、DVDの感想ではなくて、かつてのキューバ旅行に思いを馳せる日記となってしまいました(笑)

モーターサイクル・ダイアリーズ




キューバが誇る世界最高峰のサルサ☆ 持ってけドロボー!(笑)

Los Van Van
『Tim Pop』

0 件のコメント: