
昨日の夜、NHKで、木村充揮のデビュー30年記念ライブの模様が放送されてました。
いいもん観ました!
木村充揮。
憂歌団のボーカル。1954年生まれ、72年デビュー。99年に未来永劫続くと思っていた憂歌団がまさかの活動休止をしてからも年100本以上はライブを続けてきた木村さんの、30周年ライブです。
憂歌団でも木村さんでもいいんですが、なにも変わらないですね。
とにかく、オンリーワンで、誰にも似てなくて誰にも真似出来なくて、余計なことは一切しないで、昨日も今日も、そして絶対に明日もおなじで。
誰だって目新しいことをやってみたいもんだし、おなじことばっかりやってたら飽きるし、飽きられる不安もあるだろうし…、でも、木村さんは、なにひとつ変わらない。
木村さんは一見不器用に見える人だけど、音楽に関してはじつはかなり器用なほうで、本当はいろんなことが出来る人なんです。でも、そうはしない。
その、変わらなさが、とても信用出来るんですね。
大体、あの、天使のダミ声があれば、それだけで極上の音楽になっちゃうんだから、これはもう、天賦の才です。
その、天賦の才の持ち主が、よそ見をせずに自身の歌を追求するんだから、極上にならないわけがありません。
大阪が世界に誇れるブルーズマンですね。世界遺産に登録してもいいくらいです。
このライブでは、木村さんと親交のある人たちがゲストで入れ替わり立ち替わり出てきてね、木村さんと共演するんです。ファンのみならず、どれほどのミュージシャンから愛されてきたことか!
オープニングは、『当たれ宝くじ』の06年バージョン。
上田正樹&有山じゅんじの、憂歌団とともに関西ブルーズ・シーンを担ったサウス・トゥ・サウスの面々と共演です。
一般の人には、上田正樹は『悲しい色やね』の人になるのかな。今はインドネシアでスターになってますけど。
宝くじ当てて借金返したいな〜♪ って歌。サビなんて、宝くじ、当たれ〜♪っていう、身もフタもない歌ですよ。
木村さんの真骨頂だけど、難しいことを言わずに、すごく直裁的な表現をする。
直裁的な単純な表現でじゅうぶんにエンターテイメントとして成立しちゃうところが、この人の天才たる由縁です。
次、『嫌んなった』。憂歌団時代のナンバーが続きます。
これもやはり関西ブルーズ・シーンの一翼を担ったウエストロード・ブルーズ・バンドの永井“ホトケ”隆が参加して、すごいドロドロのブルーズに。
あの娘に男がいた、なんとかしてくれ、神さまホトケさま〜♪
って歌です。
『天王寺』。ゲスト、大西ゆかりです。大阪は新世界、天王寺の歌姫です。
ここで客席から「なに言うとんねん!」のヤジ。
「じゃかあしいわっ!」と返す木村さん。
それを大西ゆかりが翻訳します。
「今のは、“きっちり喋ってくださいよ”、“なにをおっしゃってるんですか”、と、大阪弁での掛け合いです〜」と。
そう、木村さんのライブは、むかしっから、客席とのやりとりが面白いんです。もうね、ライブ会場じゃなくて、居酒屋の雰囲気ですから。
でも、若いころは、これでよくケンカになってたんですよね、憂歌団のライブでは。そーいえば、木村さんもむかしは痩せてて、もっとギラギラしてた。丸くなったというか、いい年の取りかたをしてるんですよ。
続いて名曲『おそうじおばちゃん』です。ゲストは、自身のライブでも憂歌団の歌をカバーしているLeyonaがブルースハープを吹きながら、ギターに三宅伸治。三宅伸治は、大学受験のために上京したときに、RCサクセションと憂歌団のライブを観て、衝撃を受けて、そのままRCの楽器持ちになった男です。MOJO CLUBや清志郎バンドを経て、今は木村さんと一緒にツアーをまわってるんだとか。
それにしても、『おそうじおばちゃん』はいつ聴いても最高です☆
1日働いて2000円!♪
今日も働いて2000円!♪
クソに塗れて2000円!♪
こんなあたしにも夢はある♪
かわいいパンティはいてみたい♪
きれいなフリルのついたやつ♪
イチゴの模様のついたやつ♪
黄色いリボンのついたやつ♪
あそこの部分の透けてんの♪
あたしゃ、ビルのおそうじおばちゃん♪
もう、いつ聴いても抱腹絶倒です! これは知ってる人も多いんじゃないかな。
この歌初めて耳にしたときは、衝撃でしたけどね。だって、クソ真面目なブルーズに、こんなおちゃらけた歌詞が乗っかってて、それを絶叫して歌うんだもん。でも、ブルーズって、じつは、こういうお笑いの側面もあるんです。それを日本で初めて表現したのが、憂歌団だったんですね。この手のお笑いブラック・ミュージックが日本に出現するのは、憂歌団以降では、ウルフルズまで待たねばなりません。
続いて、なぜか橘いずみが登場。彼女って、むかし、『失格』とかの、シリアスでヘヴィで痛いナンバーを歌ってた人ですね。およそ木村さんとは似つかわしくないんですが、いつの間にか木村ファミリーに入っていたようで。『OSAKA RAINY BLUE』を木村さんと一緒にしっとりと歌い上げていました。しっとりといっても、たこ焼きの歌ですけどね。
ひときわ歓声が上がったのは、近藤房之助が登場したから。『踊るポンポコリン』のBBクイーンズのほうが有名なのかもしれませんが、彼こそ、関西ブルーズ・シーンの重鎮ブレイクダウンに在籍した、本物のブルーズマンです。まさに、関西の両雄の夢の共演!
ナンバーは、懐かしの憂歌団ナンバー、『10$の恋』。
すべての男はおまえの親戚みたいなものだけど〜♪
愛しいおまえに会うために、今日もカネをわたすだけ〜♪
って、娼婦のおねえちゃんに恋しちゃった悲しい男の歌です。
『陽よ昇れ』『ちっちゃなダイヤモンド』では、斉藤和義と共演。
ハードロックか?ってなくらいに、地響きがするほどのぶ厚い音なんですが、木村さんが歌うだけで、ブルーズになっちゃう。
『明日の彼氏』では、なんと金子マリが登場です。チャーのバックでど迫力のコーラスを歌う、下北沢のジャニス・ジョプリン! もう、70年代ブルーズ・シーンを担ったメンバーが、総出で出演ではないですか。
ブルーズ・シーンからだけではなくて、『出稼ぎブルーズ』では、加川良と泉谷しげるのフォーク組が参戦。そういえば、憂歌団をメディアで一番最初に絶賛したのは、泉谷しげるです。彼もまた唯一無二のシンガーですが、その彼と木村さんが組むと、ほとんど演歌になってしまいますな。
西へ東へ三度笠〜♪
待ってて母ちゃん、帰るから〜♪
若いもんには絶対に歌えない、演歌です。
ずっと歌ってたら、ファンがついてきてくれる。ファンがいなかったら不安やなぁ…。木村さん、オヤジギャグも絶好調です(笑)
続いて、ずーっとむかしから歌ってる『君といつまでも』。
加山雄三なんかよりも、はるかに素晴らしい木村さんの『君といつまでも』です。
木村さんはすごく照れ屋さんで、普段はどもりまくってるんですが、歌うときはじつに堂々としている。だから、この歌のセリフも、すごく決まるんです。セリフのところで、客席が一気に沸きますから!
『ゲゲゲの鬼太郎』も歌いました。
ご存知でしたか? ゲ、ゲ、ゲゲゲのゲ〜♪は、憂歌団が歌ってます。今回のゲストは、押尾コーターロー。まだブレイクする直前にオレの友だちが自分の作品展に彼を呼んで、演奏してました。オレはそのときに、君はギターが上手いけれども、まだまだ味が足りないな、もっと経験を積みなさい、などと言った覚えがあります(笑) すまん、コータロー、オレが間違ってた(笑) 君のギターは、そんなもんじゃない。
アドリブで効果音をギターで入れまくってました。音楽による、コントですね。木村さん、歌ってるときの姿がほとんど鬼太郎でしたよ!サイコー☆
『オモロナイ』では九州から鮎川誠&シーナ夫妻がやってきて、ロケッツが再結成されました!ブルーズ繋がりというよりも、70年代ロック繋がり。大ロックンロール大会になってました!
こういうのを聴いていると、木村さんって、懐が深いなぁと思ってしまいます。
そしてなんと! ブルーハーツ&ハイロウズのヒロトがゲストに!
これはもう、さもありなんの組み合わせですが、目の当たりにしてみると、嬉しすぎる組み合わせです!
ヒロトが木村さんの30周年のために書いた『プロフェショナル』を歌います。
君の輝きでプロフェショナルな仕事をしよう〜♪
七つ道具とシブいパートナーで、プロフェショナルな仕事をしよう〜♪
早起きして、夜更かしして、昼寝して、プロフェショナルな仕事をしよう〜♪
好きこそモノの上手なれというけれど、本当に好きか、本当かどうかが大切だ〜♪
って、じつにヒロトらしい歌。ブルハ&ハイロウズの黄金のミドルです!
ヒロトが、木村さんにはもちろん数え切れないほどの影響を受けてるけど、真似は絶対にしない!って言ってました。
ウンウン、その通り。木村さんの真似なんて出来ないし、しても仕方ないよね。
そして、神さまが木村さんをつくってくれたことに感謝!って言ってました。
ほんとそうだ。大阪に木村さんがいてくれて、どれほどハッピーになれてることか、オレは。
ヒロトがね、終始笑いながら歌ってるんですよ。もう、子供みたいになってる。すごく微笑ましい光景でした。
DonDokoDonの山口智充が木村さんのもの真似をやりにステージに上がってきました。木村さんが2人になって爆笑。というか、彼は音楽の本質がわかってる人間なんで、やっぱり、憂歌団に惹かれたひとりなんですね。
BEGINも登場。最初はブルーズをやっていたBEGINですが、どこからか沖縄民謡を手がけるようになりましたよね。自身のルーツを見つめることで、ブルーズを豊かにしようとしてるんです。それは、木村さんが、憂歌団が、大阪を拠点にして、大阪のブルーズしか歌わないのを見たからですよ。だから、BEGINなんて、憂歌団がいなかったらどうなってたかわからないと思いますよ。
そのBEGINが『竹富島で会いましょう』の沖縄民謡を披露します。シャッフルが入っていて、どこかブルーズに通じるところがあります。今の木村さんが沖縄に行きまくってるのも、沖縄民謡にブルーズの匂いを感じるからなんだろうな。
続いて登場したのが、チャー&石田長生のBAHO。世界一ギターの上手い2人が、木村さんのことを称して、「哺乳類一歌が上手い男」と言いました。チャーは、そのむかし、木村さんの横でギターを弾いていて、あまりの歌の上手さに涙を流した人ですから。もう、なにもかも極上のテクニックを持った3人が『ボクサー』を演奏します。極上、としか表現しようがない。
かまやつひろしも登場! 『バンバンバン』を演ってくれました。木村さん、どこまで交友関係が広いんですかっ!(笑)
最後は、木村さんの新曲『スキップ・ミュージック』を全員で。
これがね、軽快なナンバーで、すごくよかった!
口笛吹いてスキップ、あちこちで歌ってる、青い空〜♪
ってね。会場全体が踊り狂うフロア状態! ほんと、みんな狂ったように踊ってました。
ほいで、最後の最後、憂歌団時代から、アンコールを3回も4回もやる人でしたから、もちろんアンコールありです。ラストは一人で、『ケサラ』。しんみりと、しみじみと、淡々と。
なんとかなる〜♪
ってね。
あっという間の2時間。
ほんと、いいもん観ました。
なんか、途中から涙が出てたな、オレは。
天王寺で、昼はパチンコ屋、夜は居酒屋。そのあたりを物色してたら、木村さんに会えます。
どこにでもいる、そこらへんのおっさんです。むかしっから。
すっごい照れ屋さんでね、難しいこと考えなくてね、でもマジメで、誠実で、負けん気が強いけどケンカするわけじゃなくてね、愛されて、すごい優しさで人を包んでくれてね、あったかいんです、彼は。
そして、
天使のダミ声で、極上のブルーズを歌うんです。
人情の人ですね。
ロックに人情なんて必要ないけど、木村さんを見てたら、音楽って人柄なんだなぁ、と、しみじみと思います。
いろんなことがものすごいスピードで変化していく時代に、まだまだ戸惑ったり迷ったりすることも多いオレにとって、絶対に変わらない木村さんがそこにいてくれる、それだけで、すごく安心出来るし、心強くもあります。
いいライブでした。
憂歌団 / 『Stay with You Forever』