2006年4月27日木曜日

なにもない場所の素敵な民宿

昨年、夏の盛り、9月の初めだったと思うんですが、京都の山奥、花背というところにある民宿に、彼女と2人で行きました。

山奥といっても、京都市左京区。
ご存知ない方も多いでしょうから説明しますとですね、京都市左京区というところは


京都の地図が手元にある人は広げてみてほしいんですが、京都市左京区のエリアの広さといったら、尋常じゃありません。
南は下鴨神社のあるところですが、ここははっきりいって京都市中、都会です。
これがですね、北へ北へとグングングングン伸びているんですよ。京都の奥座敷として紹介される鞍馬や大原なんて、まだ左京区の中間ぐらいの位置です。そっからね、山を越え野を越え、いくつかの名の知れない集落を越えてなお、まだ左京区です。

そんな左京区のどん詰まり、花背という場所にある民宿に、去年の9月に彼女と行ったのでした。
これがねえ、ほんまにここは京都市なのか?と言いたくなるほどに、すごいところにあるのですよ。
まず、京都の市中、出町柳から1日に2本しか出ていないバスに乗って約2時間かかります。途中からは通りは山道めいてくるんですけどね。それでも、京都市左京区(笑)
しかも、目的の民宿はそこにあるのではなくて、そこから迎えの車に乗ってさらに山ん中を30分ほど走ったところにあります。それでも、京都市左京区(笑)
もう、なんにもないところでね。山と川と畑があるだけの、隠れ山里みたいなところです。完全に、林間学校の舞台みたいなところですから。それでも、京都市左京区(笑)
京都府○○市大字小字じゃないですから。あくまで、京都市左京区(笑)
地図を見ていただきたいのですが、とても京都市左京区の地図とは思えません。でも、ここはまぎれもなく、京都市左京区(笑)

でもね、いいんですよ、ここが。
途中、バス停前にあった家の姓が「杜若」(かきつばた)。だからか、バス停の名前も「杜若」。平安時代の惟喬親王お手植えと伝えられるカキツバタが、この敷地内にあるのだとか。
だから、かなりむかしから開けている山里で、神社もあったりするんですが、、まあ、それだけのことで、あとはなんもない。
山と川と畑しかないです。
都会育ちのオレや彼女にとっては、なんにもないところというのは、住めといわれたら退屈で逃げ出すだろうけれども、遊びにいくのには、たまらなくいいところです。
村上春樹の『ノルウェイの森』の舞台になったところらしいので、いち時期はどっと若い女性客が訪れたらしいのですが、今はそんなこともなく、人の気配すらありません。

民宿がまたいいところで。
老夫婦で営んでおられるんですが、接客がすごく気持ちいい。
オバァは丁寧に接してくれるんですが、オジィは、隣近所の旧知の間柄みたいな、なんの気取りもなく接してきます。この2人のバランスを上手く説明出来ないで歯がゆいんですが、家に帰ってきたようでもあり、でも要所要所はきっちりとお客さん扱いしてくれるような、とっても心地いいんです。接し方の距離感がね、とても心地いいんですよ。

部屋もいいんです。
代々、庄屋さんだったところがそのまま残っている家で(江戸時代末期の建物ですと!)、もちろん茅葺き。欄間には、由緒正しき槍なんかが飾られています。
オレと彼女が泊まったときはお客さんが少なかったこともあって、続きの2間を独占させてもらいました。
部屋の前は縁側を挟んでよく手入れされた苔庭です。で、その向こうは山影を配した見事な借景ですよ。それ以外になにもないから、虫の音しか聞こえません。

ずーっと、その縁側で寝そべってましたね。
たまに、川に遊びにいったり。。

食事は、鶏鍋です。裏庭の小屋でオジィが飼育されている地鶏で、しめたばっかりのものが供されます。ササミやレバーの刺身が出されて、それから鍋。
シャモを思わせる引き締まった肉質で、肉自体に野生の風味があります。高級な焼き鳥屋なんかで出てくる、出来かけの卵も。

暗くなれば、TVもないし、携帯も通じないし、やることなどなにもありません。いや、明るいうちでもやることなんてなにひとつないんですけどね。
ジーッという虫の音と、蚊取り線香の匂いが部屋に漂っているきりです。
ふと、小学校の林間学校が思い出されます。頭のなかが田舎の空気のようにスキッと澄み切ったかんじになって、寝つけません。眠れなくて苦痛、というわけではなくて、そうやって冴えた頭で山里の夜の音を聴いている状態が、とても心地いいんです。

翌朝も、オバァが摘んできた山菜の天ぷら。
シャキッとしますね。

部屋には、宿泊客が思い思いに感じたことを書き綴ったノートが置かれているんですが、日本中からいろんな人が来ています。そして、みんな、また今度来たい!って。連泊される人も多いみたいです。

じつは、ずいぶん前にここを知り合いに紹介したんですが、つい先日、夫婦で行ってきたとのこと。
まだ寒かったので、夜はオジィが豆タンのアンカを用意してくれて、そういうのを見たのも初めてだったから、なにもかもが新鮮でよかったとのこと。

その話を聞いて、またオレも行きたくなってきました。
今年、もっといい季節になったら、もっかい彼女と行こうと決めた、今日のオレなのでした。

民宿ダン林。TEL.075-748-2113
1泊1人9000円。安いです。


こんな場所では、音楽は無用です。

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