2006年6月7日水曜日

『ライフ・イズ・ビューティフル』





 仕事先で素敵なDVDがまわってきたので、仕事の手を止めて思わず見てしまいました。

 『ライフ・イズ・ビューティフル』。
 喜劇俳優ロベルト・ベニーニの監督・脚本による、言わずと知れた世界的大ヒット作ですね。欧米であまた量産され続ける「ナチスもの」のなかでも、極めて異彩を放つ戦争喜劇です。

 ざっとストーリーを要約するとですな、
 舞台は1937年、イタリア・トスカーナ地方の小さな町アレッツォ。陽気なユダヤ系イタリア人のオレフィッチ・グイド(ロベルト・ベニーニ)と美しい小学校教師ドーラ(ニコレッタ・ブラスキ。ベニーニの公私にわたるパートナー)の運命的な出会いから物語ははじまります。いちいち思いもよらない滑稽な方法で自分の面前へ登場するグイドに、ドーラの心は奪われ、やがて2人はめでたく結ばれるんですけどね。
 が、しかし、ときはムッソリーニによるファシズム政権下。一粒種のジョズエ(ジョルジオ・カンタリーニ)に恵まれた幸せな生活も、ひたひたと迫り来るユダヤ人迫害の嵐に巻き込まれていきます。そしてジョズエの5歳の誕生日の日、一家はユダヤ人強制収容所に連行されてしまいます。
 絶望的な収容所の生活。しかし、ここからが本作の白眉なんですよ。
 グイドは、幼いジョズエに悲惨な現実を悟らせないために、この収容所生活は「ゲーム」なのだ!と、決死の嘘をつきます。とにかく、生き抜いて「得点」を稼げば戦車がもらえるのだと、グイドはジョズエに吹き込み続けるのです。
 「軍服を着た悪者に見つからないようにかくれんぼをするんだ。最後まで見つからなければ、ご褒美に本物の戦車がもらえるんだ。泣いたり、ママに会いたがったりしたら減点。いい子にしていれば点数がもらえて、千点たまったら勝ち。勝ったら、本物の戦車に乗ってお家に帰れるんだ」
 ガス室へと送り込まれ、所内から減ってゆくユダヤ人たち。連日の肉体労働と空腹。絶望の日々が続きます。でも、グイドは、ひたすら笑顔で明るく振る舞い、幼いジョズエにこれが「ゲーム」なのだと固く信じ込ませるのです……。

 ナチスによるホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を、ユーモアを交えながら告発する本作のベニーニのやりかたは、リアリズム追求の論点から、多くの批判を呼び寄せもしました。でも、弾圧迫害される側が、なにも想像せず、抵抗もせずに死んでいったわけじゃないではないですか。
 そこには、人間がいます。恋をし、季節を感じ、笑い、呑み、歌い、踊る、あまたの人間がいます。父親が強制収容所体験を持つベニーニは、ややもすればとっぴないと思われるシナリオをもってして、人間主義と国家権力を明瞭に対置させ、ひとつの物語を、観る者の心に深く刻み込ませる戦法をとったのでした。
 極限状態の絶望のなかで、何度でも再生される積極的人間性のありかは、まさに愛の人、ベニーニであるからこそ触れえる世界です。そしてなによりも、ベニーニ自身による演技が素晴らしい。ユーモアとペーソス、そして想像力が導く人間讃歌に乾杯したくなります。

 ベニーニは、インタビューでこんなことを言っていました。
「僕のようなコメディアン的な男が強制収容所という極限状況に置かれる。このアイデアには自分でもびっくり仰天した。クラクラしたよ。怖くなったぐらいさ。大量虐殺の現場にコメディアンがいるなんて、なんとも逆説的だ。だからといってひるむわけにはいかない。そんな映画をつくる勇気はない、なんて言いたくなかった。それほど魅了されたんだ」
 と。

 うん、いいものを観ました☆

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