2006年6月29日木曜日

岡林信康の今





最近、仕事で音楽DVDを見まくってるんですが、今日は、岡林信康を観ました。

今や、ほとんどの人が知らんだろうな。
まあ、オレも、主な音源は聴いてるけど、リアルタイムでは知りません。(あ、オレのマイミクさんではごくごく一部の人がご存知です。笑)

フォーク・ブーム全盛の時代、「神」とまで呼ばれた男ですわ。
60年代の後半から70年代の初頭にかけて、『友よ』『山谷ブルース』『手紙』『チューリップのアップリケ』『それで自由になったのかい』ほか、いくつもの名作や問題作を発表し、数多くの追従者を出しながら、短い期間のうちに寒村へ引きこもった男です。その隠遁は数々の憶測を呼び、しだいに彼は生きる伝説となっていった人です。

そんな彼は今、『エンヤトット』を歌う。
オレがリアルタイムで知ってるのは、このころからですね。逆に、「神」と呼ばれていた当時に聴きまくっていた人は、彼の『エンヤトット』の活動をほとんどご存知ない。ファンの年齢層が、完全に分断している、珍しいパターンの人です。

彼は、今、といっても80年代以降からですが、エンヤトット、エンヤトット…、という、日本の、アジアの、田舎くさいリズムを、自分の新たな出発点だと考えているようです。
日本の祭り歌に朝鮮半島の音色が盛り込まれたそのリズム。バックには津軽三味線とサンバのパーカッションが加わって…、祭りも伝統もかたちばかりになったような時代に、かつての「神」は、人と祭りのつながりを歌っています。

DVDは、そんな彼が久しぶりに東京に出てきてライブをやった模様です。

小奇麗なライブハウスが、ほぼ満杯になったころ、岡林信康はメンバーを連れ立ってステージに現れました。ジーンズの上下に黒のシャツ、黒のスニーカー。
なんの前触れもなしに、歌いはじめます。ギター、アフリカン・パーカッションのジンベ、それに、黒人風のコーラスを付ける3人の女性。むかしからすれば、ずいぶんと音楽的なったもんで。
むかしのフォーク・ジャンボリーでの演奏の映像を見たことがありますが、それとはかなり趣が違う。音のボリュームを低く抑え、ゆったりとした調子で全体のリズムをまとめようとする気負いのない姿です。

3曲が終わったところで、岡林は奇妙なことを言い出しました。

歌を歌うようになってから35年間、今夜、初めてステージが楽しいと思える、と。こんな気分は自分自身にとっても大きな変化ではないかと、彼は言うのです。

そして歌い出したのが『山谷ブルース』であり『チューリップのアップリケ』だった。
これが、ちょっとビックリでしたね。

60年代後半、音楽が政治と濃厚に結びついていたあの時代、反体制派にとっての象徴的な1曲が『山谷ブルース』です。最下層の労働者が住む日雇いのマチ、山谷。岡林は、このマチの人々の感情をこの歌を通じて訴えかけました。
もうひとつの『チューリップのアップリケ』は、貧困と部落差別をテーマとする名バラードです。今でも泉谷しげるや美輪明宏さんが歌ってますが、ともに、日本のフォークの記念碑とも言うべき名作なのだが、時代背景も違うために、今、これを歌う意味を見出すのは、とても難しい曲です。特に、岡林本人がこれを歌うというのは、ノスタルジー以外のなにものでない、と、とられかねない歌です。

そんな曲が、さらりとしたかたちで、再び舞台に乗せられたのでした。
ただ、その優しい歌い口には、牙はありませんでした。あるのは、疲れた身体に染み込む、一服の緑茶のような安定感です。気負いがまったくなく、ただの歌だ、というかんじです。本人のなかで、なにかを超越しちゃったんでしょうね。だからこそ、観ているオレも、気負うことなく身体にしみました。

岡林は以前、美しいものは例外なくシンプルである、と、言ったことがあります。
自分の作風も、こねくりまわすことなく、歌のありかたは、つとめて単純にしているのだと。
ノド越しのいい讃岐うどんのようなメロディ・ラインも、ゆっくりと落ちついて人の感情を高揚へまで辿りつかせるリズムにしても、すべては、岡林の、シンプルな美しさに基づいています。
しかし、詩に関しては、この人は、トピカルすぎました。だからこそ、時代を超えて生き残っていかない。
それもまた詩ですから、この人は詩の人であって、少なくとも音楽の人ではない、と、オレはずっと思ってきました。大幅に譲歩しても、歌の人です。

エンヤトットでやっていることは、和洋のエッセンスを丸モチのように練り込み、西欧音階のカドを取り除いたリズムをベースに祭を現出させるもくろみです。
べつに、今さら珍しい手法じゃない。
それでも、肩の力が抜けているせいか、結構、しみるんですよね。
かつて「神」と呼ばれた男は、今も、なんだかんだで酸いも甘いも噛み分けて、ナマの人の生を歌ってます。

篠笛が、じつにキレイでした。




岡林信康 / 『山谷ブルース』




ワールドカップ日記:
ブラジルvsガーナ=3-0
今回のアフリカ勢はチュニジアを除いてすべてが初出場。その初出場組がカメルーンやナイジェリアを押しのけてドイツに駒を進めたわけは、ディフェンスが組織だって整備されていることに尽きると思います。かつて、アフリカと言えば身体能力はすごいけど、組織が確立されていない、というのが定説でした。でも、今回のアフリカ新興組は、どこも組織ディフェンスが確立されてます。アフリカは新時代を迎えてるみたいですね。
ガーナは、それに加えて、中盤のパスワークが素晴らしく、ショートパスで狭いスペースを突いてくるあたり、まさにアフリカのブラジルの名に相応しいではないですか。
もっとも、狭いスペースを突いて崩すだけではやはり本家ブラジルに分があるわけで、今後はもっと広い視野でフィールドを見た攻めが課題になってくるでしょうね。両チームの現時点での実力が、そのまま得点に反映されたように思います。

フランスvsスペイン=3-1
名前だけを見ると、ベスト16で実現するにはちょっと惜しいカードですが、戦前、ジダン頼みのフランスはこのあたりで負けるのが順調だと、オレは思っていました。一方、スペインはかつてないほどの好調。
でも、結果は、スペインの完全な負け。特に後半、スペインは無惨なほどディフェンスラインを下げてました。交替選手も効果的な活躍は出来なかった。なんででしょうかね? フィジカルの差、若さ、そのあたりでフランスのほうが一枚上手だったのかも。。イマイチ、よくわからんゲームでしたが、なにはともあれ、フランスが勝ちました。フランス、これで波に乗れるのかなぁ? フランスは意外と全員が調子を上げてきたし、右サイドのヴィエラがものすごく効果的に動いてます。
次のブラジル戦、案外…。

0 件のコメント: