2007年6月17日日曜日

『ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ』


仕事で、今さらながらに、ゲンズブールの『ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ』を観るハメになったのですが、よく考えたら、ちゃんと観てなかったような気もして、ほいで、ちゃんと観てみたら、やっぱりちゃんと観ていないことが判明しました。

主人公の女は、ショート・カットにペチャパイの少年美、ジェーン・バーキン。で、監督・脚本・音楽が、セルジュ・ゲンズブール。
と来れば、当然これは、愛の物語以外にはありえませんな。

しかし、改めて観てみるとですな、本作における、ジェーン・バーキンは、目映いばかりの美しさを誇ってます。いわゆる、通俗的なエロチシズムからはほど遠いはずなんですけどね。
俳優の輝きが監督の愛によって磨き出される好例は映画の世界に数多ありますが、バーキンが単にゲンズブールのバービー人形であったならば、こうはいきまへん。ここにあるのは、彼女が後年、『ラ・ピラート』や『カンフー・マスター』でみせた円熟名演の萌芽です。うん、すでに萌芽がありますな。

といって、ゲンズブールにとって、本作は、初の映画監督作品。彼は、10年強の時間を私生活のパートナーとして共にしたバーキンの、内奥に秘めたる輝きを、銀幕狭しとちりばめてます。
そして、バーキンは言います。あんなに美しく撮られたことはない。そして、あんなに幸せだったこともない、と。
このひとことが、すべての言葉を粉砕していきます。まさに、映画、です☆

ある日、バスルームで鼻唄を歌っていたバーキンの擦れ声に、ゲンズブールは、以前、当時の恋人ブリジット・バルドーのためにつくったお蔵入り曲の存在を思い出します。それが、『ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ』。この映画は、ゲンスブールとバーキンによるエロティックな歌詞と喘ぎ声が物議を醸した、あの大ヒット・チューンがモチーフになってます。

「愛してる(Je t'aime)」
「オレ? さあね(Moi non plus)」

この映画は、無防備な女と、男しか愛せない男の、居場所のない者同士による「連れション」のような物語です。

カラスの死骸。
使い古された便器。
ゴミの山。
立ち小便の立ち上る湯気。
埃舞う大地。
マッチョな男同士のカップル。
醜女のストリップ。
アナル・セックス。

ゲンスブールの美意識は、活写する対象を選びません。スクリーンには、ただそこにあるものが映し出されるのみです。まるで、ゴダール。

ゴミ収集のゲイ・カップルが立ち寄った田舎町のカフェ。殺風景な店内をとり仕切るのは、痩せこけた少年のような美女、ジェーン・バーキンです。
男のうちのひとり、クラスキー(ジョー・ダレッサンドロ)は女と恋に落ち、同性愛の恋人パドヴァンは激しく嫉妬します。クラスキーは、女の外見のみならず、彼女に内包する「少年性」と恋に落ちる…。

いざ抱こうとしても不能になる男。
私を男だと思って!と言って、尻を差し出す女。
アナル・セックスの悲痛な叫びは生々しく痛いのですが、観る者は、愛し合う若い2人の無邪気な無軌道を祝福します。このね、満ち溢れていく、微妙な幸福感がいいんですよ。

ハイライトでもあるダンス・シーンの、永遠に続くかと思わせる官能的なキス・シーンを導き出すのは、ゲンズブールの食い入るようなカメラ、視線です。このあたり、エロオヤジ、ゲンズブールの真骨頂なのですが、単なるエロに堕していないのは、ゲンズブールが、官能に至情の美を見いだしているからでしょう。

それでも、幸福は続きません。
彼女の中のオンナが剥き出しになる瞬間、勝手なクラスキーはオンナを拒否し、同性愛の恋人パドヴァンと立ち去るしかないのでした。

このあっけない幕切れに、オレは、意味を求めようとは思いません。
この美しいフィルムに記録されたものが、愛に他ならないから。

ほら、抜けるようなさわやかな青空に、意味なんてないもん!

やはり、というべきか、当時、露悪趣味と酷評を浴びた本作を絶賛したのはフランソワ・トリュフォーで、私の映画なんかわざわざ観に来る必要はない。暇があったらゲンズブールの映画を観ろ。あれこそ芸術だ!と、小気味いいことを言っています。

バーキンの小動物のような躍動美は、稀代のナルシスト、ゲンスブールとの関係においてのみ見い出されたものだったろうし、逆に、バーキンなくしてはゲンスブールもこの魅力的な名品を作り得なかったでしょうね。ラヴ・アンサンブルの完全勝利(笑)

ゲンスブールの没後も、彼の作品のみを歌い続けるジェーン・バーキン。アラビックにリアレンジされたゲンスブール曲を歌う彼女の、瑞々しさに溢れた逞しい唄声に、連続する人生の再生と唄の強さを思います。





『Je T'aime... Moi Non Plus』
Jane Birkin & Serge Gainsbourg

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