2007年11月28日水曜日

『駅前旅館』





月にだいたい30冊〜100冊程度、本を読みます。
幅がありすぎますが(笑) 仕事での移動が多いか少ないかでかなり変わってくるのですよ。

もともとが文学少年のパンク小僧ですから、それなりに読書歴は長くてですね、いわゆる純文学というやつは、ほとんど総なめにしておりますです。全集とか、読みあさってたし。

最近は、というか、この10年以上はもっぱらノンフィクションばっかりですな。
だって、最近の小説で食指が動くのって、年に数冊しかないし。
ノンフィクションはね、知らない世界のことがたくさん書いてあるから、食指が動くのが多いのですよ。それでも、ヘタクソな文章に当たると、放り投げてしまいますが…。
なので、薬の効能書きでも、文章に味わいがあれば、読んでますわ、きっと(笑)

さて小説です。
純文学は、存在の意義だとか孤独だとかがテーマになっているものが多いので、そりゃ若かりしパンク小僧にはぴったりなのですが、そういうことが人生上の大きなテーマではなくなってしまった年齢に突入してしまうとですな、娯楽としての文学に向かっていくのですが、これがね、読むに耐えるものがなかなかなくて…。

お話がよく出来ていても、描写がヘタクソだったり、比喩がヘタクソだったり、要するに観察が浅いのが多くてですね、よくこんなものを恥ずかしげもなく世に出してるな、と。
人間を見る目が浅かったり、キャラ設定がいい加減だったり、時代考証が抜けていたり…。

鬼平犯科帳とかね、やっぱあのクラスのものでないと、そそりませぬ。

と思っていたところ、最近、いい本が出ているのを見つけて、繰り返し読んでいるのがあるんですよ。

井伏鱒二の『駅前旅館』。

これ、新潮文庫から新装で出てまして、むかしの本ですから400円。安い!
井伏鱒二といえば原爆ものの『黒い雨』や教科書にも載ってる『山椒魚』が有名ですけど、これはノーマークでしたわ。

昭和30年代頃の東京・上の駅前の団体旅館が舞台でして、そこの番頭さんがね、宿屋家業の舞台裏をいろいろ語ってくれるのですよ。
業界の符牒にはじまって、お国によるお客の性質の違いから、呼び込みの手練手管、修学旅行生の扱い、美人女将を巡る番頭仲間の仁義と生態なんかがですね、勃発する珍騒動の傍らに織り込まれていて、非常に奥行き深い小説で、かつ、滅法おもしろい!

キャラとはお客さんのこと。
ガマ連れとは女連れ。
ハクイ玉は美人のこと。
お客の懐にカネがたんまりありそうなのは、桁深い。
カネのないのは、桁ハイ、もしくはオケラ。
一人客はピンコロ。
酒を飲むのはドジを引く。
食事をするかどうかは、ハクはいいのか?もしくはハクは出るのかい?
座敷はシキザ。
宿料はケタ。
料金の安いところはケタ落ち。
ご祝儀はバッタ。

言われてみると、なるほど〜ってのもあれば、解説されてもわからんものもありますが、こんな豆知識がですね、随所に出てきますわ〜。

オレが社会人になったころにはすでに、駅前旅館は駆逐されていて、ほぼすべてが味気ないビジネスホテルになってしまっていましたが、たま〜に、ありましたね。
泊まったことも、何度かあります。
しっかりした日本家屋で、瓦葺きの二階建てで、玄関のガラス戸が広く開けてあって、左に下駄箱があって、右にはオモトの鉢なんかがあって、正面の大黒柱には大きな振り子時計があるような…。

板間が引き戸で仕切ってあって、カレンダーの下に金庫や小机が並んでいて、見かけはさほどでなくても奥がやたらと深くて、廊下が2度3度折れ曲がっていて、あちこちに階段が口を開けていて、猫の額のような中庭越しに二階の手すりが見えて、そこにずらりと手ぬぐいが干してあって、迷路さながらで…。

そういう、王国のような場所でですな、井伏鱒二が取材しまくったであろう宿屋家業の番頭さんの生態がこれでもかと盛り込まれ、それを横糸にして、縦に珍騒動が繰り広げられていくという、小説。

涙と笑いとペーソスと酒と女と男と色恋と色恋のバカバカしさと仁義とあれやこれやの入り交じった人情話がね、しんみりほっこりしていて、よろしいのですよ〜。

なんか、少し苦い良薬を飲んだような気分です。

ちょっと寅さんチックなところがあって、こいつを下敷きにしたらいい喜劇が出来るのになあ、なんて思っていたら、むかーし、映画化されていたことがわかりました。

主演、森繁久彌(笑)
いかにも、です。
フランキー堺とか伴淳三郎とか、達者な俳優さんが脇を固めて、マドンナ役に淡島千景…。
なんか、『駅前シリーズ』とかって、シリーズ物になってますな。DVD、出てるのかな? 見たいな。

今、3回目の再読に入ってます。


人情ファンクといえば、P-Funk☆
誰がなんといようと、P-Funkは人情のカタマリ☆
音質、めっちゃ悪いけど(笑)



P-Funk All Stars / 『We Want The Funk』


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